2024年11月25日(月)

ちょいとお江戸の読み解き散歩 「ひととき」より

2020年7月28日

 左のお嬢さんは赤い格子文様の着物に黒襟、さらに中着、下着にも黒襟をつけ3枚重ねにしています(6)。髪型は、貝のように巻き上げた髪にかんざしをひょいと挿し留めた、「ばい髷」(7)、粋筋のお方でしょうか。また手拭いと脇に抱える風呂敷(﹅﹅﹅)は、柄を揃えて麻葉文様の「有松絞(ありまつしぼり)」*2、お風呂に行くのもトータルコーディネートに抜かりありません(8)。

右(7)、左上(6)、左下(8

 この浮世絵のお嬢さんたち、おくれ髪の線も色っぽい、なのに小さな唇に、そしてあごにも、お顔の線が描かれていない、輪郭線がありません(7)。それでいて、さっぱりした湯上り顔とさわやかな香りまで感じられる、これぞ歌麿ワールドです。

 非常に繊細な美しさがここまでキープされているのは、スポルディング・コレクションだからこそ。1世紀以上人目に触れることなく保存されているからでしょうか。

 タイトルの脇に漢文風の「古代者女湯以甲(申)刻(こく)*3当此図」とあるのは、歌麿さんからのご口上です。「その昔、女性がお昼にお風呂に入ることはなかったが、この頃はご覧のようでございます」と苦言を一言(1)、なれどわれらが歌麿さんでも、文字は小さめです。


*2  江戸時代初期、尾張藩の特産として有松(現名古屋市緑区)で生産された絞染の総称。竹田庄九郎
     を開祖に誕生、技巧の豊富さ、多彩さで知られる
*3  申ノ刻は15~17時の時間帯


【牧野健太郎】ボストン美術館と共同制作した浮世絵デジタル化プロジェクト(特別協賛/第一興商)の日本側責任者。公益社団法人日本ユネスコ協会連盟評議委員・NHKプロモーション プロデューサー、東横イン 文化担当役員。各所でお江戸にタイムスリップするような講演が好評。

【近藤俊子】編集者。元婦人画報社にて男性ファッション誌『メンズクラブ』、女性誌『婦人画報』の編集に携わる。現在は、雑誌、単行本、PRリリースなどにおいて、主にライフスタイル、カルチャーの分野に関わる。

●ボストン美術館蔵「スポルディング・浮世絵版画コレクション」について
米国の大富豪スポルディング兄弟は、1921年にボストン美術館に約6,500点の浮世絵コレクションを寄贈した。「脆弱で繊細な色彩」を守るため、「一般公開をしない」という条件の下、約1世紀もの間、展示はもちろん、ほとんど人目に触れることも、美術館外に出ることもなく保存。色調の鮮やかさが今も保たれ、「浮世絵の正倉院」ともいわれている。

協力=NHKプロモーション

  
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◆「ひととき」2020年7月号より

 

 

 

 

 

 

 



 


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