2022年6月30日(木)

Washington Files

2020年7月6日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。著書に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

「マスク着用コール」の高まり

 このように一貫してマスク着用に否定的だった大統領だが、さすがに今月1日になって、FoxNewsインタビューでマスク着用の考えを改めて聞かれた際「別に着けないわけではない。必要な状況なら着用する。ただそれを国家的義務付けとする必要はない」と語り、これまでの発言から一歩前向きな反応を見せた。与党共和党議会指導者たちによる「マスク着用コール」の高まりを無視し続けるわけにはいかなくなったからとみられる。それでもなお、今後、トランプ氏が実際に公の場でマスクを着けるかどうかは別問題だ。

 ホワイトハウス関係者によると、大統領がマスク着用を執拗に敬遠してきたおもな理由は、国の最高指導者として、直面する国難対処に当たり、マスクを着けることで勇猛果敢に戦う“男らしさmacho”のイメージを傷つけかねないことを気にしているからだという。事実、いくつかの世論調査結果でも、「男性中心主義」にこだわる共和党右派支持者の大半が、マスクを拒否する理由として「女々しい印象を与えるから」と答えている。

 現に大統領自身、マスク着用のメリットを認める一方で「その姿を報道陣に見られたくない」と語ったこと自体、TV画面での見栄え=optics をことさら気にするトランプ氏の苦しい胸の内を表にさらしたといえる。

 大統領は先月初め、ミシガン州デトロイト郊外のマスク製造工場を視察、需要急増で日夜量産に取り組む作業員たちを激励した。そのこと自体、マスクの重要性を認める象徴的行動を意味したが、それでも報道陣を前に、一人だけマスク姿を見せることはなかった。

 しかし、米マスコミの多くが、もはやマク着用かどうかは、一人大統領個人の判断の問題にとどまらず、全米とくに南部諸州の広いトランプ支持層が、大統領がマスク着用もせず普段通りの姿で遊説に出かけるシーンをTVで見て、コロナ感染拡大予防のための自助努力を怠ってきたとして、その重大性を繰り返し指摘してきた。

 その結果が、最近1週間のフロリダ、テキサス、ジョージア、サウスカロライナ、ノースカロライナなど南部諸州における感染者急増であり、早期景気回復の足を引っ張る要因にもなりつつある。

 そこでトランプ大統領再選をめざす共和党首脳部としては、とにかく大統領にはできるだけ早い機会に、公の場でマスク着用し、国民一丸となってコロナとの戦いに臨む確固たる姿勢を打ち出してもらいたいというのが、共通の願いでもある。

 ニューヨーク・タイムズ紙著名コラムニスト、ニコラス・クリストフ氏は1日付の投稿欄で、「マスク着用の効果は医学的にも立証されているだけでなく、東アジア諸国で早くから国民の多くがマスクを着け、コロナ感染抑制の範を示している。ホワイトハウス報道官は、大統領が着用するかどうかは、あくまで個人的問題だとコメントしているが、それは間違っている。今こそ、大統領が自ら着けると同時に、支持者にもそれに従うよう呼び掛ける重要な時期に来ている。それこそが愛国心を高揚させ、経済を擁護し、隣人たちの生命を救う道だ」と訴えた。

 果たして、いつまでもmachoとoptics にこだわり続けるトランプ氏が、今後どの場面で、マスク姿を見せることになるのか、あるいは最後まで拒み続けるのか―大統領選ともからみ、大きな国民的関心事になりつつある。

  
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