積極的に見に行けば、
目に付くすべてがヒントになる
依田はその後、上司からこんな一言をもらったという。
「椅子を作っているとしても、椅子だけがヒントになるとは限らないよ」
例えばデザインだ。木目調の椅子を作りたい時、椅子だけをヒントにするだけでなく、例えば自動車のダッシュボードなど、椅子以外の何かに使われている木目に普段から着目しておけば、部品を作る時の選択肢が広がる。
「よく“アンテナを張れ”などと言われますが、それは、いつなんどきでも“これ使えないかな?”と考えろ、ということだと思うのです。例えば、マッサージチェアも、電気シェーバーも、回転運動をします。だからこそ、私は遊園地に遊びに行ったとき“コーヒーカップって何であんなに思いっきり回しても大丈夫なんだろう?”などと考えることがあります。その時、仕事という感覚はありませんが、ちょっとだけ気にして見てみると、それが自分の引き出しにしまわれていて、いつか役に立つときがくる。職業病と言われてしまえば、それまでなんですが(笑)」
その後、設計から商品企画に部署異動をした依田。慣れない仕事であったにも関わらず、すぐさま活躍できるようになったのは、やはり、設計を担当していた時代から自分以外の仕事のことまで考えていたのが大きい。世の中のヒット商品を見ると、商品の性能は大きく変わらなくても、名前や使用シーンを変えるだけで大ヒットした例があった。そこで、依田は鼻毛カッターを『エチケットカッター』という商品名に変えた。買う時、お客様が恥ずかしいだろうという配慮と、鼻毛という名前のままでは目立つ売り場に置かれることはなく、“日陰商品”から抜け出せないだろうという予見からだった。そして、名前を変えた効果もあって商品の売り上げは対前年度比200%という凄まじい伸びを記録する。
そして、電気シェーバーの担当者になった時、彼は自ら売り場や工場などを訪ね歩くようになり、仲間とともにある構想をまとめた。──お風呂の中で電気シェーバーが使えれば、もっと気持ちよくひげをそれないか? そして、この時の気づきが『ラムダッシュ』のヒットを生むきっかけになった。
上司や先輩に教えてもらえることだけでは、市場を変える人気商品など作れはしない。1年目の課長への反発と、その結果としての気づきは、たしかに彼を一流へと押し上げていたのだ。
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