世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年8月3日

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 ポーランドの大統領選挙(5月に予定されていたが、直前になって延期されていた)の決戦投票が7月12日に行われ、「法と正義」(PiS)が支持する現職のドゥダが、野党第一党「市民プラットフォーム」(PO)のチャスコフスキ(ワルシャワ市長)を僅差で破って再選を果たした。両者の得票率はそれぞれ51.03%および48.97%、投票率は68.18%だった。今回の選挙は5月に投開票が予定されていたが、直前になって延期されていた。

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 PiSにとってこの選挙は負けられない選挙だった。大統領には、大きな権限がある訳ではないが法案に対する拒否権がある。他方、PiSは拒否権を覆すに足る議会における5分の3の多数を持っていない。従って、負ければ、PiSの政治に多大の障害となり得る事情にあった。チャスコフスキは選挙が延期された時点では候補ですらなかった。ドゥダに真剣な勝負を挑むこととなったが、ドゥダの支持基盤を崩すことにはならなかった。

 選挙の結果はポーランドで進行する分断の状況を反映するものとなったとの観察で識者の見方は一致しているようである。地域的な分断、貧富の格差による分断である。若い世代と都市部の有権者は圧倒的にチャスコフスキを支持したが、ドゥダは地方で勝った。年齢別に見ると、50歳以上の有権者については20ポイント、60歳以上は25ポイントの差でドゥダが勝ったが、40から59歳の有権者については10ポイント、30から39歳は11ポイント、18から29歳は30ポイントの差でチャスコフスキが勝った由であり、年齢による分断も明瞭である。

 OSCE(欧州安全保障協力機構)の選挙オブザーバーは、分極化の状況を指摘するとともに「選挙戦や公共TVにおける同性愛嫌悪、外国人嫌悪、反ユダヤ主義の不寛容なレトリックに心配させられた」と述べている。難民・移民を攻撃対象として2015年に政権に就いたPiSにとって外国人嫌悪は何も新しいことではないが、彼等がドイツその他の諸国がメディアを通じてポーランドの内政に干渉しているかの如き言辞を弄し、あるいは国営TVを通じて「チャスコフスキはユダヤ人の利益に操られている」と攻撃した事例を指摘しているものと思われる。

 今後2023年の議会選挙まで選挙はない。この間、PiSは司法とメディアの掌握に更なる措置を講じるつもりなのであろう。ナショナリスティック、社会的に保守、ポピュリストの強権政治が続くことになる。僅差の勝負となったことをもって、チャスコフスキはPiSを負かし得ることを証明したと言う人もいるが、分断の状況に変化が生じ、PiSの支持基盤にひびが入る可能性が見えている訳でもないであろう。当分、PiSを負かす機会はないように思われる。

  
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