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2020年8月13日

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和田大樹 (わだ・だいじゅ)

オオコシセキュリティコンサルタンツ アドバイザー/清和大学講師

日本安全保障戦略研究所(SSRI)研究員、日本安全保障・危機管理学会主任研究員などを兼務。専門分野は国際政治学、安全保障論、国際テロリズム論。日本安全保障・危機管理学会奨励賞を受賞(2014年5月)、著書に「テロ、誘拐、脅迫 海外リスクの実態と対策」(同文館2015年7月)、「技術が変える戦争と平和」(芙蓉書房2018年9月)など。研究プロフィールはこちら

 一方、近年、欧米諸国では反移民・難民、反イスラムや反ユダヤなどを掲げる白人至上主義組織の台頭、暴力的な白人至上主義者によるテロが顕著に見られる。今年に入って新型コロナウイルスが欧米諸国を襲ったということで、今後は、「非白人世界からやってきた新型コロナウイルスによって欧米世界が大規模な被害を受けた、白人の世界をさらに守らないといけない」などとして、新型コロナウイルスを自らの主義主張を正当化する道具として利用することが懸念される。

 米国の国土安全保障省は3月、白人至上主義組織が2月にユダヤ系の米国人や警察官を標的として、唾やウイルスを混入させたスプレーなどを使って非白人にウイルスを巻き散らすテロを感染した支持者に呼び掛けていたと発表した。また、米南部貧民救済法施行機関(SPLC)は3月、米国内における過激派組織の活動状況に関する調査報告書を公表し、白人至上主義組織の数が過去3年間で55パーセント増の155組織に達し、そのうち大量殺戮による多文化社会の崩壊を目指す「暴力的過激主義」を唱える組織の増加が顕著になっていると指摘した。

 イスラム過激派が活動する国々と同じく、欧米各国でもコロナが経済低迷に拍車を掛けており、新型コロナウイルスによって経済的被害を受けたと感じる白人が白人至上主義組織の受け皿になる例が増えることが懸念される。

アジア系へのヘイトクライム

 そして、それを危惧させる兆候が少なからず見られる。今年に入って、欧米諸国ではアジア系への暴力や嫌がらせなどヘイトクライムが急増している。米国ではこれまで統計的にもユダヤ教徒やイスラム教徒、黒人に比べると、アジア系へのヘイトクライムは割合的にも少なかったが、今後は海外邦人の安全という視点からも注意が必要である。

 欧米人には中国人と韓国人、日本人を見分けられる人は少なく、反中国と意識しても結果的にアジア系へのヘイトクライムとなる場合が多い。ロサンゼルス市東部のサンガブリエル・バレー市では3月、その標的となることを恐れたアジア系市民による銃器の購入件数が急増し、一部の銃器販売店では売上がほぼ倍増したという。パリ郊外の日本食レストランでは2月、「コロナウイルス出ていけ」と書かれた落書きが発見され、ロサンゼルス郊外のトーランス市でも6月、「日本に帰れ、猿、店を破壊するぞ」などと書かれた紙が日本人の経営する店に貼られていた。

 こういった欧米諸国における排斥的な流れは、白人至上主義組織や支持者を助長するものである。今後は欧米各国で新型コロナウイルスによる経済的疲弊がどれだけ続くかにもよるが、長期間になればなるほど白人至上主義組織が支持される余地が生まれ、暴力的な白人至上主義組織によるテロが今まで以上に増える恐れがある。

 以上のように、新型コロナウイルスの感染拡大のテロ情勢への影響は、短期的ではなく中長期的に考える必要がある。テロ情勢への影響は今後より具体的に現れてくる可能性がある。

  
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