世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年8月21日

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 トランプ大統領は、かねてより中国の動画投稿アプリTikTokの使用禁止を示唆していたが、8月6日には、TikTokが米国企業に売却されない場合TikTokを所有・運営するByteDanceとの取引を45日後から禁止するとする大統領令に署名した。TikTokを買収する米企業としては米マイクロソフト社が有力視されている。

Wachiwit / iStock Editorial / Getty Images Plus

 TikTokの禁止は、中国企業が保有するデータへのアクセスを持つことに対する懸念を反映している。中国の国家安全保障関連法は、そのすべての企業が治安機関の要求に従うことを義務付けている。ByteDanceは、利用者情報を開示することはなく米国のデータは米国で保管されていると主張するが、米国側はこの説明に納得していない。

 TikTokは、たわいもない動画が次々に出て来るだけの若者に人気のアプリという印象であるが、個人情報が抜き取られ、それが国の安全保障に有害だというのなら排除せざるを得ない。抜き取った個人情報を利用してByteDanceや中国政府がサイバースパイを働くことは十分に考えられることである。また、検閲が行われ動画が選択されている懸念があるのであれば対応を要する。例えば、香港での抗議運動の動画を検閲しているという非難がある。

 TikTokの禁止は、Facebook、Google、Twitterが中国から締め出され、中国で「インターネット安全法」や「国家情報法」でネットの統制が行われている現実の裏返しに過ぎない。8月4日付のフィナンシャル・タイムズ紙の社説は、インターネットの地域的な分断は不都合だというが、動画投稿アプリの分断を重大視する必要はないであろう。

 ByteDanceはTikTokの米国事業を手放す用意があるとされているが、マイクロソフト社(北京とは良好な関係を維持しており、対中強硬派からは疑いの目を向けられているらしい)による買収交渉がどうなるのかは分からない。勿論、買収金額の問題もあるが、TikTokの米国事業(カナダ、豪州、NZの事業も合わせ買収の意向のようである)を欧州あるいはアジアの事業から技術的にどうやって切り分けるかなど、色々問題があるらしい。

 TikTokはファーウェイとは戦略的重要性の次元が全く異なる。利用者が多数だからといってTikTokは、死活的に重要な5Gインフラを提供するファーウェイとは異なり、アプリの一つであり戦略的資産とまでは言えないのではないか。米国がTikTokの米国事業を禁止し、あるいは米国企業への売却を強いたところで、中国にこの問題だけを理由に一戦を交える積りがあるとも思われない(当然、訴訟沙汰にはなるだろうが)。とはいえ、TikTokをめぐる問題が米中間の地政学的問題の一つであることは間違いない。ウォールストリート・ジャーナル紙の8月4日付社説のタイトル‘The Geopolitics of TikTok’ (TikTokの地政学)は、このことを端的に表現している。

 なお、トランプは8月3日の記者会見で、TikTokの売却額の「非常に大きな割合」が財務省に支払われるべきであると述べた。これはトランプの独創的なアイディアのようであるが、どういう法的根拠があってその種の金額が国の歳入となり得るのか、誰が支払うのかの説明はなく、不明である。こういう正当性に疑問符が付くような言動は、中国に付け入る隙を与えることにもなり、有害であると思われる。

  
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