2024年7月13日(土)

World Energy Watch

2012年7月19日

 排出枠の最大の購入者は、日本の二酸化炭素排出量の30%を占め、自主的に定めた排出目標を達成するために排出枠を利用した電力業界だ。購入量は2億6千万トンに達する。日本政府も1億トンを購入した。この排出枠の購入に関しては政府内で大きな批判がある。中国で実施されたCDMプロジェクトでは、日本の技術と設備の利用は殆どなく、中国製と欧州製の設備が利用されたためだ。日本企業には見返りがなかった。国富の流出だったとの批判だ。

海外からの排出枠購入費用も要因に

 海外での温室効果ガス削減プロジェクトに日本の技術が利用されることを目的に、日本政府は新たな仕組みとして「二国間オフセットクレジット制度」をいくつかの新興国に提案している。日本の技術と設備を利用し新興国で温室効果ガスを削減し、その削減分を日本の目標達成に利用する制度だ。この制度により削減がなされた場合には、日本政府あるいは企業が排出枠を購入することが必要になる。原発の再稼働がなければ二酸化炭素の排出量が大きく増加する電力業界が、結局排出枠を購入するしかないのではないかとの見方がある。

 欧州の景気低迷により排出枠の価格は低迷している。現在CDMの排出枠の価格は二酸化炭素1トン当たり3ユーロから4ユーロだ。この価格であれば、年間1億9千万トンの二酸化炭素排出量に見合う支払額は600億から800億円程度だ。大きな金額だが、電力料金に反映された場合には0.5%程度の値上がり額だ。

 ただし、排出枠価格の低迷が続く保証はない。英国政府は排出枠の価格が低迷している状況では省エネの投資が進まないとして、排出枠価格は40ユーロになるべきだと主張している。この主張の背景には排出枠を取り扱っている英国の金融機関支援の思惑もある。もし、40ユーロになれば、電力業界の負担額は8000億円になる。電力料金は5%以上上昇する。

自由化で電力料金は4度上がる?

 さらに電力料金は上がる可能性がある。現在検討が行われている自由化が料金の値上がりを招く可能性だ。自由化の目的は、消費者の選択肢を増やすことと、地域電力会社以外の発電設備を増やし、競争を招くことで電力料金を下げることだ。発電設備は投資額が大きく、しかも長期に亘り利用されるために、投資の意思決定には長期間の収益見通しが必要だ。特に、価格が大きく変動する化石燃料を使用する場合には見通しが難しい。確実な収益見通しがなければ設備投資は増えない。

 今の電力料金では、火力による発電の利益はあまり望めない。加えて、将来の電力供給の姿が見通せない状態では、新規設備投資には踏み込めない。日本の火力発電設備の多くは老朽化が進んでいる。自由化を進めれば、最悪の場合には、設備が減少するが代替設備の建設が進まない可能性がある。電力料金を市場に任せれば、供給が減少した時に価格は上昇する。値上がりの可能性を完全に否定することは難しい。今後検討が進む制度設計で市場に任せながら料金の上昇を抑える方策が織り込めるかどうかだが、市場と規制を同時に行うことになるだけに、難しそうだ。

 電力料金の値上げは家庭と産業に大きな影響をもたらす。新興国はむろんのこと先進国のなかでも過去20年間、名目国内総生産が殆ど伸びていないのは日本だけだ。失われた20年間と呼ばれる時代が、さらに続き失われた30年、40年になるのだろうか。エネルギー政策の選択が我々の生活に大きな影響を与えることを忘れてはいけない。

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