工業団地に着いたのは14時前。メインストリートの両脇にある芝生の植え込みや木立の下で女性たちが座っているのが目に付いた。出迎えてくれたのは、現地社長の崎谷俊一氏。
「皆さん、ランチの時間ですか?」
「お昼には少し遅いですよ。あれは、ストライキなんです。もう15日目です」
と、崎谷氏は教えてくれた。
ストライキを起こしているのは、向かいにある日系企業の縫製工場だ。民主化の影響で権利意識を持ちはじめたことや、これまでなかった労働組合法が整備された影響もある。ただ、最も大きな原因は5月に公務員の給与が3万チャット(3000円)上げられたことだ。
ミャンマーに在住して25年。日本人で最も現地に精通しているといわれる大丸興業ヤンゴン事務所長池谷修氏も「かつてこんなストライキがあったことはない」というほど、大規模に広がりをみせている。
従業員への配慮は欠かせない
マツオカでも、今回の騒動を受けて従業員との話し合いの場を設け、一部賃上げの要求に応えたという。現在、平均賃金は7万5000チャットほどだ。
一口に縫製業は労働集約型産業と言われるが、生地の検反、裁断用の厚紙作成、生地の柄合わせ、裁断、縫製、検査、梱包と、人が手をかけないとできない作業が多い。安く人を使うという発想だけでは生産性も上がらないし、品質にも関わる。だからこそ、従業員への配慮は欠かせない。
電力供給が不安定なことばかりではなく、コストの問題もあって、一部の作業場を除いてエアコンはない。そのため「『私もみんなと一緒』ということを見せないと駄目です」と崎谷氏は、社長室のエアコンを点けていない。それでも、従業員の作業効率を下げてはならないと、100万円かけて換気扇を設置した。さらには、昼食で肉料理を出す日を1日増やす、意見箱を設ける……。崎谷氏の口からは、従業員に対しての細やかな配慮の施策がいくつも出てくる。