ウォールストリート・ジャーナル4月10日付で、コラムニストのPhilip Bowringが、ミャンマーの復活は、米欧が制裁を全面解除して初めて起こり得る、と言っています。
すなわち、米国は対ミャンマー制裁を部分的に解除し、欧州もまもなく制裁の見直しを行うが、制裁は全面解除されるべきで、これは、テインセイン大統領への褒美ではなく、ミャンマー人の役に立つと考えるべきだ。
それによってミャンマー経済が直ちに改善されるわけではないが、改革の支持基盤はできる。国外のミャンマー人の帰還や起業、西側製品の流入や西側企業への就労、外国投資は、インフラ整備・雇用・農業再生・教育再生、中産階級の成立や繊維産業の復活につながる。
それに、西側資本や外国貿易に対して開かれるのが早ければ早いほど、今後の民営化の過程でコネを持つ者が大きな利権を手にするのを防ぐことができる。今のままなら、腐敗したエリートを生み出しかねない。
また、ミャンマー人はスーチーを支持したが、これは政治面のみならず経済面でも彼女に期待しているからだ。スーチー自身はテインセイン大統領との交渉材料として制裁を必要としているかもしれないが、彼女は今や反体制の英雄ではない。体制内で役割を果たすことを選んだ者として、制裁解除を含めて社会・経済状況の改善に貢献しなければならない。
逆に、スーチーへの期待が満たされず、制裁が続いて経済成長が阻害されれば、情勢は不安定化し、軍事的反動が来るだろう。
なお、カレン族やカチン族と和解するまで制裁を維持すべきだという意見もあるが、こんな基準はタイやフィリピンには適用されていない。それに中国がカチンに聖域を提供している問題もある。
ミャンマー人は国際社会との関係正常化を求めている。ミャンマーの軍事政権に反対してきた国にはミャンマー正常化を助ける義務がある、と言っています。
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先般の補欠選挙は議会の6%の議席を決めただけであり、2015年の総選挙までは制裁を続けて民主化圧力をかけるべきだとする論が多い中で、バウリングは制裁の早期全面解除こそがミャンマーの改革を進める、と論じているわけですが、同感です。改革が経済の改善と生活水準の向上につながることを人々が実感できるようにすることが重要です。
事態がどんどん変わっていく変革期の政治への対応は難しいものがありますが、政治が大きく動いている時には、大きな決断をしていくことが肝要です。ミャンマーの場合も、政権に改革への圧力をかけ続けるための制裁継続という対応よりも、全面解除で大きく改革を促進する方が適切なように思われます。スーチーがテインセイン政権との交渉上、制裁の全面解除を待ってほしいと要請する場合はともかく、そうでなければ、制裁の全面解除に踏み出すのが良いと思われます。これには賭けの要素もありますが、賭ける時には賭けるべきでしょう。