しかし、上記David Sanger氏が6月1日付ニューヨーク・タイムズ紙で上記著作の大筋を発表して以来、国家がサイバーを攻撃手段として利用すること、つまり、インターネットを経由して敵国施設やインフラのコンピューターに侵入し機能を麻痺させるoffensiveかつstrategicな兵器として用いること(大規模停電、GPS攪乱、航空機誤導、列車追突等)が、大きな話題になっています。
電力等のインフラ、金融をはじめ経済活動の多くがコンピューターによって動いている現在、サイバー戦は、軍事革命と呼んでいいほどのマグニチュードを持つ問題になっています。例えば、高度にITを利用することで、その圧倒的優位を確保している米軍は、サイバー攻撃で、その優位は劣位に変わってしまいかねません。また、そのような状況では、米軍は機密漏えいを恐れて、同盟国軍とコンピューター・ネットワークを連結することに慎重になるかもしれません。それは、有事における米軍との連携を困難なものにしかねません。
つまり、サイバー戦とは、日本にとっても、ハッカーによる攻撃からいかにコンピューターを守るのかといった問題から、安全保障全般に関わる戦略的な問題になってきましたので、政府として対応を整備する必要が出てきました。世界のインターネット通信のうち、アジア・米国間のものの殆どが、日本を中継します。アジア発米国向けインフラ攻撃ソフト等を中途で捕捉するため、米国等と協力体制を組むことも必要となるでしょう。
本件論評は、サイバー戦については防御に重点を置くべきであると言っています。しかし、攻撃手段を自ら開発することなしには、防御手段も十全には開発できないでしょうし、相手国に攻撃を思いとどまらせることもしにくいでしょう。また、先般イランの核燃料濃縮工場に対するサイバー攻撃は、イランに対する武力攻撃を当面避けるためにも、大きな効果を発揮しました。
日本は、どのようなサイバー戦能力を開発するべきでしょうか。まず、電力網、原発、金融網等のインフラをサイバー攻撃から守るための手段の開発が最大の課題でしょう。他方、防衛戦闘に用いることのできるサイバー戦能力は、日本の余力を活用して大いに開発すべきでしょう。これは、相手国将兵を殺傷することなく、艦船・軍用機・ミサイル等の通信・計算・方向維持機能等を麻痺させる能力のことです。サイバー戦能力は、日本のインフラ抗堪力、そして防衛力を大きく高めます。関係各省庁(防衛省、外務省のみならず、経済産業省、国土交通省、総務省、金融庁等)が一丸となって取り組むべき優先対策とすべきでしょう。
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