米国のインターネット雑誌 ”Slate” (1996年マイクロソフト社が設立。2004年ワシントン・ポスト紙が買収)は、2012年6月8日付で、「米国がサイバー戦争に勝てないわけ」と題する、Fred Kaplanコラムニストの論評を掲載しています。Fred Kaplan氏は、米Boston Globe紙から記者のキャリアを積み、国際政治・軍事を専門としています。彼は、今後のサイバー戦を予測して、米国は、民間部門の若者を動員して、サイバー戦能力の開発、向上を図るべきである、と論じています。
すなわち、マッケイン米上院議員は、「サイバー戦こそは21世紀における最重要の分野となるであろうにも関わらず、米国はこれまで防護手段の開発ばかりやってきた」と述べているが、最近出版されたDavid Sangerニューヨーク・タイムズ紙記者の著書 ”Confront and Conceal” が暴露したように、米国サイバー軍は、2009年の結成以来、攻撃能力も開発してきた。それが、イランのナタンツ核燃料濃縮工場の遠心分離器を大量破壊したのである。これは、オバマ大統領も承認した作戦だが、彼は承認に当たり、この作戦で周辺の病院等民間施設が被害を蒙らないよう求めた。
ここに問題の本質の一端が現れている。つまり、サイバー戦能力は核と同じく、米国以外の国も持っているので、「米国が勝つ」保証はないということである。米国社会は世界でも最もコンピューター化されているので、サイバー戦が拡大するとむしろ米国が不利な立場に立たされる。
2年前、ホワイトハウスでこの件を担当していたRichard Clarke氏が、“Cyber War”と題する書物を出した、これは、近年最も重要な安全保障関係の書籍と呼べる。Clarke氏はここで、サイバー戦については攻撃能力よりも確かな防護能力を開発する方が大事――例えばインターネットのプロバイダーが敵からの攻撃用ソフトを途中で捕捉・破壊すること――であること、また民間施設・インフラに対するサイバー攻撃を条約で禁止し、違反を監視する国際フォーラムを設立して、違反者を制裁すること等を提言している。オバマ大統領も、イランに対する攻撃を限定的なものに留め、それを世界の規範にしようとしたのであろう。
サイバー戦能力の開発は、かつての核戦力開発と同じく、機密に包まれている。しかしサイバー分野の最高の頭脳は、核とは異なり、民間分野にいる若者たちである。彼らの能力を活用するためには、機密遵守基準を緩和することも必要となるだろう、と述べています。
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サイバー戦争と言うと、これまでは、中国やロシアが米国国防省のコンピューターに侵入して情報を盗んだり、妨害のために改竄したりする、いわゆる「サイバー・テロ」がもっぱらの話題で、西側はこれに対してどう防護するかというdefensiveな議論が主でした。