2024年4月29日(月)

Wedge REPORT

2020年9月28日

 「専門家に聞く」シリーズの4回目は、都市、住宅政策の視点から、浸水被害を減らすためには治水対策と同時に、浸水の恐れが高く、特に甚大な被害が想定されるエリアで住宅を新たに建てることは制限すべきではないかーーと都市政策と住宅政策の見直しを主張している明治大学政治経済学部の野澤千絵教授に聞いた。

(zepp1969/gettyimages)

Q ハザードエリアに建っている世帯はどのくらいあるのか。

野澤教授 国交省の調査によると、日本では1203万世帯、約4世帯に1世帯が災害リスク地域(土砂災害警戒区域、津波浸水想定地域、浸水想定地域のいずれか)に居住している。最近は自然災害の発生や公衆衛生上の脅威など、これまでの想定を超える事態になっている。しかも、人口減少、税収減収、復旧工事などの担い手減が見込まれる中で、今後、復旧・復興費用の公的負担が耐えられなくなってくるのではないか。

Q 自然災害の頻発に対応して、今年6月に都市計画法などが改正され、市街化調整区域の浸水ハザードエリアなどにおける住宅などの開発許可が厳しくなったのをどうみているか。住宅地の開発規制が最も必要だと思われるのは、どういう地域か。

A 今回の改正で、市街化調整区域内の災害ハザードエリアにおける新規立地の抑制に向けて前進したと言える。しかし、大都市圏や地方都市の郊外には、大都市圏や地方都市の郊外には、市街化を促進する区域(市街化区域)と市街化を抑制すべき区域(市街化調整区域)に区分されていない非線引き区域というエリアが広大に存在している。

 こうした非線引き区域では、農地関係の規制が許せば、3000平米未満の開発行為は開発許可が不要で、開発規制が緩い。特に、バイパスや道路ができるたびに、利便性が高まった郊外の農地エリアに新規の住宅が建てられ、開発許可が不要な小規模の住宅開発が進行し、全体的な人口は減少していても、若い世代が流入し局所的に人口が増加しているところも多い。こうした農地エリアは、もともと浸水リスクの高い低地に広がっていることが多いため、甚大な浸水被害にあう危険性がある。

 非線引き区域は、市街化区域の3.4倍の面積を有し、そこに約2047万人(2017年都市計画基礎調査)もの人が住んでいる。災害の多発化・激甚化する中では、今後、非線引き区域を対象に、甚大な被害が想定される災害ハザードエリアの開発規制の強化も必要だ。

Q では安全な場所に住宅の立地を誘導するにはどうしたらよいか。

A 地元の市町村は人口を少しでも増やしたい、地主等の反対も大きいため、災害ハザードエリアと言う理由だけで、現行の緩いままの土地利用規制を市町村が自主的に見直すというのは難しい。このため、住宅政策との連携が極めて重要で、「立地」を重視した税制、助成制度へと転換すべき時期にきているのではないか。

 いまは甚大な災害が想定されるハザードエリアであっても、新築住宅や既存住宅の購入、住宅ローン、改修費用などに対して、立地を問わず一律に税制上の優遇措置が受けられる仕組みになっている。また、多くの市町村で、新築だけでなく、中古住宅や空き家の住宅取得や改修費用に対する補助など、独自の助成制度を展開しているが、過疎化対策・移住支援の側面が強いこともあり、「立地」の観点が希薄である。災害の頻発・激甚化時代の中では、住宅政策として、せめて災害ハザードのリスクの低いエリアのほうに少し厚く優遇するよう見直すことが必要だ。

Q しかし、開発規制をするとなると、私権の自由を制限することになり、地主の説得が難しいのではないか。

A 日本は私権を制限するのが難しい国だ。災害リスクが高いからと言って、面的に広範囲に開発を制限することはできないし、そもそも日本は災害ハザードエリアが多く、あまり広い区域を制限すると住むところがなくなってしまう。このため、地区ごとに、想定される災害リスクの程度や現実的に避難可能な建物の有無やキャパシティなどを精査した慎重な対応が必要で、こうした点を地域住民と一緒に丁寧に検討するプロセスが大事だ。こうした検討プロセスを通じて、甚大な被害が想定される災害ハザードエリアの開発規制の見直しだけでなく、災害リスクや避難行動に関する情報共有をすすめ、住民の命が守られる総合的な減災につなげてほしい。


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