2024年12月9日(月)

WEDGE REPORT

2020年7月30日

 近赤外光を使った新しいがん治療法として注目されてきた、がん光免疫療法に使う医薬品と医療機器の実用化を担っている楽天関連会社の楽天メディカル社(本社米カリフォルニア州サンマテオ、三木谷浩史会長)が、厚生労働省に対して3月に医薬品と医療機器の製造販売の承認申請をした。この元となる治療法の研究を長年続けてきた、米国立衛生研究所(NIH)の一部門である国立がん研究所の小林久隆主任研究員にがん光免疫療法の可能性について聞いた。

こばやし・ひさたか 1961年生まれ。京都大学医学部卒業。医学博士。放射線医師として勤務した後、2001年、NIH・NCIシニアフェロー。04年からNIH・NCI分子イメージングプログラム主任研究員。14年、NIH長官賞を受賞。兵庫県西宮市出身。

Q 申請にまで到達した感想は。

小林主任研究員 抗体を用いた新規がん治療開発の研究に研究生活の大半を費やしてきたので、考えてみれば長かった気がする。抗体については医学生のころから研究していたが、光免疫というこのコンセプトたどりついたのが2003年か04年ごろだった。それからありとあらゆる方法を試行錯誤して、やっと今の治療法に到達した。

Q これからの実用化に向けては、三木谷会長の率いる楽天メディカル社に期待することになるが。

小林 大きな製薬会社に開発を任せると、既存の販売している商品とシェアがかち合うことがあるが、ベンチャー企業由来の新会社である楽天メディカル社には「これにすべてをかける」と言ってもらっているので、全面的に信頼している。新しい会社なので、しがらみがなく、最高のスピードで開発が進むだろうと期待している。

 今回の承認申請をした医薬品が第一歩で、再発した頭頚(とうけい)部がんが治療の対象だが、同じ標的(分子)に抗体がくっつくがん細胞を狙った動物実験では、頭頚部がん以外にも子宮がん、乳がん、肺がんなどでも効果が認められているので、適用できるがんの範囲を拡大することがこれからの研究課題になる。

 動物実験の次の段階の臨床治験については、胃がん・食道がん等で楽天メディカル社が日本や海外の病院と連携して行われている。

Q 実用化される時期については。

小林 承認申請されたものが厚労省でどのように判断されるかにかかっている。臨床患者の国際共同第三相臨床治験が進行中であるが、今回は「条件付き早期承認制度」が適用されると聞いており、早ければ年内に承認される可能性もあると思っている。

Q 小林先生の開発したのは治療法を分かりやすく説明すると。

小林 まず、がん細胞の表面にある標的(分子)にくっつくことができる光吸収物質のついた抗体を注射して1-2日程度がんに届くのを待つ。次にこのがん細胞にくっついている光吸収物質のついた抗体に近赤外光を当てるとスイッチが入り、そのがん細胞を壊してくれるが、正常な細胞には傷をつけないという治療である。

 この開発した技術は、ある特定の標的細胞にくっつく抗体を使うと、その狙った(がん)細胞を体内で選択的に破壊できる汎用性の高い独自な基盤技術だ。その一つ目の抗体を使ったものが、今回新薬申請した薬「ASP-1929」になる。ほかの標的を介してがん細胞にくっつく別の抗体を使えば、この基盤技術を使って治療対象になるがんの種類を増やすことができるはずである。

Q これまでのがんの治療法との大きな違いは。

小林 がんのこれまでの基本治療は、手術、放射線、抗がん剤があるが、腫瘍内と周辺の正常な細胞もがん細胞ともにも焼き尽くすか取り切ってしまうため、免疫細胞もダメージを受けてしまうので免疫力が下がってしまう欠点があった。

 一方、免疫チェックポイント阻害薬「オプジーボ」のような免疫治療薬は、防御する側の免疫細胞を活性化させて免疫細胞にがん細胞を殺してもらうが、治療自体によって直接がん細胞が減るわけではない。私の治療方法は、直接がん細胞を壊してがん細胞を減らしながら、免疫活性は理論的には上がっていく、いわばこれまでの治療法の良いとこ取りであり、基本的なコンセプトがこれまでの治療法と違う。同様の治療法は世界的に見てもない。

 また、がん治療で課題となる再発と転移については、われわれの動物実験ではこの治療法で1カ所にあるがんをたたくことで、転移しているほかのがんもやっつけた上に、一旦完治すればワクチン効果ができて再発しないことが認められている。


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