2024年11月22日(金)

Wedge REPORT

2020年9月29日

 台風や大雨など自然災害による被害多発で保険金の支払いが急増している損保業界では、火災保険商品の見直しが進んでいる。これまでは地域や築年数に関係なく保険料は一律の損害保険が多かったが、今後は対象となるマンションの管理状況を基準としたり、建物の所在地における自然災害のリスクを計算して、それに応じて保険料に格差を設けて細分化する傾向が目立ってきている。

(AndreyPopov/gettyimages)

急増した保険金支払い額

 保険金の支払いは災害の発生回数や規模により年度ごとの変動が大きくなる特性がある。日本損害保険協会によると、18年度の自然災害(風水害)の保険金支払額が、台風21号などによる大雨による水害などにより前年度の8倍以上の過去最高の1兆6000億円になった。この額は直近で多かった04年度の約7400億円の2倍超で、調査を始めた1970年度以降では最大。

 保険金の支払いが増えたため、損保各社は昨年10月から火災保険料を値上げしたが、この値上げは18年度の災害分を織り込んでいないため、今後さらなる値上げも予想され、家計の出費増は今後も続きそうだ。

 19年は9月に15号が上陸、大型ではなかったが関東で強風が吹き荒れ、千葉県市原市のゴルフ練習場の鉄柱が倒壊して隣接する民家を押しつぶすなど想定外の被害が出た。10月には19号が襲来して東日本各地で記録的な大雨となり、多摩川が決壊してタワーマンションが浸水、北陸新幹線の車両基地が水没するなど広範囲で被害が拡大した。日本損害保険協会によると、19年度の保険金支払い額は1兆円を超えており、損保各社にはさらに負担になるのは確実だ。

リスクに応じた商品

 12年ころからマンションの築年数によって保険料に違いが設けられるようになったが、最近はマンションの老朽化により水漏れ事故などが増えている。このため、東京海上日動火災と三井住友海上火災は過去2年間の事故件数や管理状況(修繕の実施状況)などによっても保険料に違いをつける制度を昨年10月から導入、日新火災海上がマンション管理士の診断結果により差をつける商品を売り出すなど、マンションのリスクに応じた火災保険が登場してきている。

 火災保険の場合、火災による事故件数は減少傾向にあり、多くの保険金が風水害事故で支払われている。台風のリスクが高い地域、雪のリスクが高い地域など、地域によって自然災害の発生頻度や被害の程度が大きく異なるため、現在、風災の保険料率は建物の所在地(都道府県別)により区分されている。一方、水災の保険料率は全国一律であり、河川の近くにあっても、高台に建っていても保険料は同じに設定されていた。

 そうした中で、楽天損保が建物の所在地におけるハザードマップ上の洪水リスク(浸水深)によって保険料に4つの区分を設ける火災保険を1月から売り出した。標準的な建物の例ではマンションの場合、区分による最大の保険料格差が年間で3000円程度、木造住宅は1万1000円ほどの差をつけている。

 川沿いの建物の保険料が上がる傾向にあるが、建物を個別に評価するため、川沿いでも周囲より標高が高い立地の場合は相対的に保険料は低くなる。同社の井手丙午・商品収益管理本部長は「住宅のある場所のリスクに応じた保険料を設定することで、契約者全体の公平感が高まるのではないか。水災のリスク実態を反映することで、契約者の7割は保険料が安くなる」と説明する。

大手も見直しの動き

 昨年は多摩川沿いにあるタワーマンションの地下部分が台風による浸水被害を受けて長期間にわたり停電となり、住んでいる住民は思わぬ被害を被った。もともと、マンションや住宅が建てられている場所がハザードマップで危険地域にあるかどうかについて購入者の関心は低かったが、今回の事件を契機に建物のある場所がどういうリスクが潜んでいるのか注目が集まっている。

 大手損保も動き出そうとしている。東京海上ホールディングスの小宮暁社長は今年に入ってから、これまでの全国が一律の料率水準だった火災保険の水災リスクについて、公平性・納得感の観点から、水災に遭いやすい地域とそうでない地域など、リスクの実態に見合ったものに見直す検討も必要との発言をしており、今後商品に反映していく。


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