今回は、旅行会社「四季の旅」(千代田区)代表取締役の土屋俊一さんを取材した。四季の旅は社員が7人、パート社員が3人、添乗員が15人。独自性のあるツアーを企画することで知られる。最近は、伊勢神宮や出雲大社、出羽三山などの神社仏閣系のパワースポットツアーが人気だ。
コロナ・ウィルス感染拡大により、旅行会社は個人旅行、団体旅行ともにキャンセルや自粛が相次いだ。訪日の外国人も大幅に減り、多くの会社が打撃を受けた。特に最前線の旅行会社の売上は減少し、一部は瀕死の状態とも言われる。そのような中、独自路線を歩む旅行会社が四季の旅だ
土屋社長にとって、「使えない上司・使えない部下」とは…。
社員は共に分かち合える間柄であることが必要
他の旅行会社が企画しているようなツアーは販売しないようにしています。それは、価格競争になりうるからです。価格競争になると、資本力があるほうが強く、当社の規模では不利になりえます。むしろ、既存のお客様との関係を強化し、リピータとして何度もご利用いただけるツアーを組み立てることに力を入れてきました。
9年前に、旅行会社「四季の旅」を設立しました。並行してお客様を会員として募り、現在その数は6万5000人になっています。弊社の規模でこれほどの数の会員組織を持つ旅行会社は相当少ないと思います。今年の3月前後からのコロナ・ウィルス感染拡大により、多くの旅行会社が打撃を受けました。弊社も売上が大幅に減り、前年比99%減となりました。9月の現時点では、前年同月比で4∼5割程度まで戻ってきました。GoToトラベルキャンペーンも始まり、今は前年同日比で100%を超える日も増えてきました。
政府が6月中旬に緊急事態宣言を解除した直後から、6万5000人のお客様からツアー参加の申込を次々と受けました。この会員組織がなかったら、今、私はこういう取材を受け、人前に出ることができない心理状況だったと思います。それほどに会員組織の力が大きかったし、お客様に感謝をしているのです。会員組織があったとしても、皆さんに満足していただけるツアーを企画する力があるスタッフや、お客様がまた行きたいと感じていただける添乗員がいないと、お申し込みはいただけなかったと考えております。
私は、社員のことをとても大切に考えております。人生で共に過ごす時間が家族よりも長いのは、同じ会社の社員ぐらいでしょう。だからこそ、共に分かち合える間柄であることが必要なのです。そのことは、経営者として以前から強く意識してきました。
たとえば、社員を採用する時、一人の社員でも反対すれば雇いません。私がその人と直接、仕事をするのではなく、社員たちが仕事をするのです。だから、社員たちの採否の考えを尊重しているのです。弊社の規模ならば、社員全員から受け入れられる人でないと、組織として機能しなくなる場合がありえます。
採用時に私が特に気をつけるのは、社員7人の得意分野と重ならないジャンルで活躍してくれそうな人であるか否かです。採用する以上は、新しい風をうちの会社に入れてほしいのです。得意分野がかぶってしまったのでは、新しい風はおそらく吹かないでしょう。
現在までのところ、それぞれの社員が持ち味を生かし、仕事をしているため、「使えない人」はいません。得意分野で仕事をすれば、ほとんどの人が「使える人」になるでしょう。私は「使える、使えない」といった言葉は好きではないし、立場上、まず使うことはありません。「使えない人?」がいたとしても、その人のある面だけを見ているから、感じるのではないでしょうか。必ず、他の人よりも抜きん出たものがあるはずです。それを見つけるのが上司であり、経営者でしょう。
旅行会社の業界は他の業界に比べ、新規参入がしやすい傾向があります。特にここ20年前後は、オンライントラベルエージェント含め、格安のツアーを売りとする旅行会社やバス会社が増えてきました。一方で、旅行会社間の価格競争が激しくなりました。組織や社員が疲弊し、廃業や倒産になるケースも増えているのです。ここに、コロナ・ウィルスの影響があり、次々と苦しくなる旅行会社が増えたのだと思います。
このような環境下では、数十年先の経営のことまで考えるのは難しいのかもしれませんね。新規事業や経営多角化をする余裕がなく、今回のような危機にぶつかると、どうする術もなくなるのかもしれません。このようなことを察して、早くから私は四季の旅オリジナルのコダわった旅の企画を重要視するとともに、会員を組織してきました。