使えない上司・使えない部下

2020年8月22日

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 今回はイラストレーターで、作家の森伸之さん(59歳)を取材した。1985年に発売され、ロングセラーとなった「東京女子高制服図鑑」(弓立社)の著者である。

 大学在学中に、高校2年から取り組んでいた女子高生の制服のイラストを描くことを本格化させた。5年以上の歳月をかけ、150校ほどの私立高の女子生徒の制服のイラストを描きためたのが、「東京女子高制服図鑑」だ。当時、この類の本がなかったこともあり、ベストセラーとなる。

 1994年に「東京女子高制服図鑑」の改訂版シリーズを終えた後も、年に1~2冊のペースで、イラストを主体とした本を出し続ける。「「制服図鑑」通信」(弓立社)、「ミッションスクール図鑑」(扶桑社)、「アンナミラーズで制服を」(双葉社)、「東京路上人物図鑑」(小学館)、「OL制服図鑑」(読売新聞社)、「私学制服手帖―エレガント篇」(みくに出版)、「平成女子高制服クロニクル」「女子校制服手帖」(河出書房新社)などだ。

 現在は、「週刊ポスト」(小学館)で連載「ふらっと歴史建物探訪」「街のツボ」を毎週描く。制服も描き続け、今や女性の制服を描かせると、第一人者と呼ばれるほどだ。

 森さんにとっての「使えない上司、使えない部下」とは…。

「こいつは使えない」と思ったんでしょうね

森伸之さんのイラスト

 編集者を「使える、使えない」と思ったことはありません。編集者は、僕の上司や部下ではなく、少なくともこちらは対等の関係だと思っていますから。そもそも、そんな言葉を使える身ではないですよ…。

 あえてこの言葉を使うならば、(1980年代半ばから)仕事の依頼が絶えることがなく、なんとか生活ができているから、「そこそこ使える」と思われているのかもしれませんね。「使いずらい」といった印象も与えているように思います。イラストの原稿を描くのが、遅いですから…。

 何でも描けるイラストレーターではないのです。女性の制服を描くことが多いのですが、ある意味で特殊ですよね。応用が効かない一面があるのです。たとえば、「ビジネス書のイラストを描いてくれ」と言われた場合、他のイラストレーターよりはおそらく使いづらいでしょう。興味があまりない分野のものを、読者を意識して作品を最適化させていくことができないんですよ。

 20代の頃、1冊の新書のイラストをすべて描く仕事を請け負いました。女子の下着に関する本でした。下着メーカーの人が著者として書いた本で、下着の理想的な選び方、付け方を紹介する内容です。

 女の子はかわいらしく描けるんですよ。下着を描いたことがなかったから、ものすごく遅れました。当時、千葉県の柏市に住んでいたのですが、出版社の30代の編集者が「今日が、本の発売に間に合わせるためのリミット」と東京から来たんです。それ以前に何度か催促を受けていましたが、なかなか描けない。その時点で、10点ぐらいのイラストが仕上がっていませんでした。編集者は「駅前の店に私と一緒に入り、描いてください」と言います。

 当時は最寄りの南柏駅前に喫茶店が少なく、編集者の考えでチェーン店の居酒屋にしたのです。そこでひたすら描く。編集者はずっと腕組みをして待っていました。むちゃ怒っていましたよ。「いや~、編集の仕事は長いけど、こんなのは初めて」「飲み屋でイラスト描いてもらうなんて、おもしろい」と嫌味を言っていました。なんとか、3時間程かけて描き上げました。

 編集者とその後、二度と会うことはなかったですね。「こいつは使えない」と思ったんでしょうね。ビール? 飲めるわけないですよ(苦笑)。「ビールください! なんて言ったら、ぶん殴られます。あの時は飲める雰囲気じゃない。ウーロン茶を飲みながら、必死に描いていました。そういう経験は、その後もちょいちょいありました。

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