今回は、唐沢農機サービス(長野県東御市・とうみし)代表取締役社長の唐澤健之さん(40歳)を取材した。農業業界は後継者不足が深刻と言われるが、同社は農業とITで独自の道を進み、躍進している。
唐澤さんは1980年、長野県東御(とうみ)市生まれ。高校卒業後、世界を目指し、カナダやニュージーランドでスノーボード行脚した後、心機一転、外資系ベンチャー企業に就職。26歳の時に退職し、東御市の父親の農機具屋を継ぐ。2007年に株式会社唐沢農機サービスを設立。農機具部門の他に、インターネット部門と農業部門を設け、事業を拡大する。全国で農機具やIT、経営に関するセミナーを開催するなど活躍している。
2009年にECサイト「農家直売どっとこむ」(長野県を地盤にフルーツや畜産品を扱うECサービス)を開設。サイト立ち上げや運営ノウハウを地元企業に還元すべく、インターネット部門「ビーズクリエイト」でウェブサイト制作・マーケティング支援事業を開始した。2014年には、全国の中古農機売買を支援するインターネット上のサービス「ノウキナビ」を始めた。
各地の農機具販売店会員のネットワークを形成し、良質な中古農機と農家をつなげるとして、業界で話題となる。「ノウキナビ」は会員制のBtoBtoCサイトで、参画している農機販売店は2020年7月現在290件、会員となる農家や農機ユーザーは2000件以上の登録がある。2020年からは、同サイトで新品農機販売を開始。累計販売実績額は8億円を超える。
唐澤さんにとっての「使えない上司、使えない部下」とは…。
自分に対しての貢献こそ、重視するべき
「使える、使えない」といった言葉は、もちろん聞いたことがあります。部下のことを「使えない」と言う上司の思いはわからないでもないです。2007年に創業しましたが、5年程前までは時々、使いたくなる場合がありました。13年間、トライ・アンド・エラーで考え方を変えるようになったのです。結局、部下が思い描いたように動かなかったり、正しい行動を取れない時は、上司の側に何らかの問題があるのです。少なくとも、今はそのように考えています。
私は、悟るようになりました。自分ひとりでは何もできない、と…。優秀な人にこの会社に来てもらい、納得して働いてもらえる環境を作らないと、夢は実現できないと思うようになったのです。私は、日本の農業を変えたい。そのために、ユーザーファーストでありたい。それで起業し、社長をしています。
農業を変えていくことができるならば、社長以外のポジションでも構いません。お金を稼ぐことだけを目的にするならば、他の方法があるように思います。まして日本の場合、起業をしても会社の生存率は低い。3年以内に8割程が倒産や廃業をします。30年後の生存率はさらに低い。99.8%が消えていくのです。それでも、社長になりますか?と聞きたくなります。
社長が偉い、といった捉え方はマスメディアの影響でもあるでしょうね…(苦笑)。日本の多くの会社は、依然として戦国時代の殿様と家来の関係があるように私には見えます。社長は偉く、社員は家来のように扱われる。そもそも、その捉え方は間違いだと思っているのです。社長は、1つの係みたいものでしかないでしょう。たとえば、資金を調達する仕事を担当する係。ほかの広報や総務、営業を担当するスタッフと同じですよ。私は、「従業員」といった言葉も嫌い。だから、「スタッフ」と呼んでいます。
社長になるのを「手段」と捉えるか、それとも「目的」と思うか、でしょう。私は、手段とみています。手段と捉えると、おのずと部下を「使える、使えない」とは思わなくなるはずです。上司と部下の関係も、これと同じことが言えるのではないでしょうか。「使えない」と言っている上司は、部下を持つことを「目的」と捉えているのかもしれませんね。
本来は、上司は他にするべきことがあるはずです。他の部下との関係づくりや育成、優秀な人材を獲得するなどしてチーム(部署)を作らないといけない。そんな大切なことを見失い、ひとりの部下について「使えない」なんて言っている人は承認欲求が強すぎるように思います。自分のことを会社に認めてほしい、といった願望です。
本当は、自分に対しての貢献度を重視するべきです。大切なのは、自分自身がどれほど納得する仕事をしたかでしょう。他人からの評価や評判よりも、自分に対しての貢献こそ、重視するべきです。その考えが明確ならば、部下のことを「使えない」とは言わないと思います。
こういう上司は、感情をコントロールすることもできていないのではないでしょうか。感情のコントロールとは、スタッフに対する怒りとか、ツライ、イライラするといった感情を自分で抑えて、管理することを言います。「使えない部下」がいたとしたら、自分で感情を高ぶらせているだけです。怒りそのものに、何の価値もありません。