使えない上司・使えない部下

2020年9月11日

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鈴木啓太さん

 今回は元プロサッカー選手で、現在はベンチャー企業の経営者として活躍する鈴木啓太さん(39歳)を取材した。

 鈴木さんは高校卒業と同時に、2000年にJリーグ浦和レッズに加入。ポジションはMF。2006年~2008年は日本代表となり、唯一全試合先発出場を続ける。2015年に引退するまで、16年間浦和レッズで活躍した。

 2015年に腸内細菌の可能性に着目し、腸内フローラ(腸内細菌の生態系)解析事業を行う研究開発型のベンチャー企業・AuB(オーブ)株式会社(中央区)を設立。

 28競技700人を超えるトップアスリートの腸内を研究し、酪酸菌など29種の菌の配合により、腸内環境を改善するサプリメント「AuB BASE」の製造販売をする。トップアスリートの腸内の分析データから独自の特徴を発見し、製薬会社や食品メーカーとの共同研究や自社製品開発を行う。スポーツ、ヘルスケアビジネスの分野でも、積極的に助言やコンサルティング、講演などをする。

 鈴木さんにとって「使えない上司、使えない部下」とは…。

 

長谷部誠選手は、他の選手と見据えている先が全然違っていました

 「使える、使えない」という言葉は、サッカー界では頻繁に聞きます。選手やファン、サポーターの中でも使われています。プロの選手である以上、使えなければいけないと私は思います。私自身、現役の頃、監督やスタッフ、選手、ファン、サポーターから「使える」と思ってもらえることに喜びを感じていました。

 当時から、この言葉はやや乱暴な捉え方でもあるのかなとは思います。たとえば、ファンから「あの選手は使えない」と見られているとしても、その選手は仕事をしているはずです。一生懸命走って、プレイもきちんとしているのです。「使えない」と思われる時は、状況判断ができていない場合が多いのだと私は思います。プレイが下手だからではなく、その時点で何をするべきかといった状況判断ができていないのです。

 状況判断がとても優れていると思っていたのは、読者の皆さんがわかりやすいところで言えば、浦和レッズにいた長谷部誠選手(所属 アイントラハト・フランクフルト)です。私よりも三つ年下で、ともに静岡県出身。一緒にコンビを組んでいましたが、ノッキングがほとんどなかったのです。私のプレイをきちんと見てくれていました。私も、彼をしっかりと見ていました。彼はたとえば、「今、自分が何をしなければいけないのか。前に出るべきか否か…」などと常に考えています。

 まず、チームプレイをしたうえで自分の個性を出していくべきだと私は思います。そのためには周りの選手が何を考えているのか、と常に考える必要があるのです。彼は、とても上手でした。ヨーロッパに行っても活躍できるのは、そのあたりをきちんと理解しているからではないでしょうか。

 長谷部選手は、見据えている先が他の選手と全然違っていました。今後、こんなように活躍したいといったイメージを明確に持ち、そのための準備をしているようでした。気持ちを20年後ぐらい先に置いている感じがしました。彼と私は浦和レッズに入る時に、全国に知られる選手ではなかったのです。それでも、目標を高く持つところは共通していました。互いに同じような匂いを感じていたのだろうと思います。

 長谷部選手のほうが私よりも能力が高かったから、大きな結果を出したんじゃないでしょうか。まぁ、私の背中を見て育ったんじゃないでしょうかね…(笑)。これは、冗談なので書かないでくださいね。

 

計算ができる選手と、計算ができない選手は確かにいます

 現役の頃、同じチームですごいなと思った選手の1人は、元日本代表の岡野雅行選手。“野人”ですね。走るのが、ものすごく速い。後輩である私が言うのも大変に失礼なのですけれど、プレイは上手くないんですよね…。だけど、めちゃめちゃ速い。あの速さを、周りの選手がいかに生かすか。そこが、大切なのです。

 岡野選手がウォーミングアップをすると、スタジアム全体が湧きます。これは、ものすごい。サッカーというスポーツの中でのエンターテイメント、つまり、お客さんの心をつかむ魅力を持っている。ただ、プレイをするだけじゃない。スタジアムの空気を一瞬にして変える。もはや、「使える、使えない」といったレベルの話じゃない。それを超越しています。いかに周りが、力を引き出すか。それによって「使える選手」にも、「使えない選手」のどちらにでもなってしまうことがありうるんです。

 「使えない」とは思っていませんでしたが、ちょっと困った選手はいました。名前は言えませんけど…。私の場合は、そのような選手の力をいかに発揮すればいいのか、とよく考えるタイプだったと思います。何かに抜きん出ているから、プロの世界にいるはず。それを見つけ出したかった。「使えない選手」をいかに「使える選手」にするべきか、と考え抜いていました。そこが、自分の役目なのかなとずっと思っていたのです。

 どちらかと言うと、私は1人でプレイができる選手ではないんです。1人だけだとすると、使えない選手の部類に入ってしまうと思います。サッカーというのは、足し算ではなく、掛け算。だから、チームでいかに力を発揮するべきか、と常に考える必要があるのです。

 これは「使えない」というものとは、また違うレベルの話かもしれませんが、チームプレイを考えるうえで大切と思うのでお話をします。

 私よりも年齢が上で、日本代表にも選ばれた選手がいました。素晴らしい力を持っているのですが、自分のプレイが試合中、上手くいかないとキレてしまうことがありました。チームの勝利に向かって戦う時は、めちゃめちゃ頼もしい。ひとたび、自分が望むプレイができなくなると、その瞬間からゲームを壊してしまうことがあったのです。

 チームは、試合に出る11人だけではない。ベンチにいる18人で戦うものです。ベンチに入らない選手もいます。特にベンチにいる選手は悔しい。その悔しさを表現する場すらない。試合に出る選手は、こういうことを心得ておく必要があります。監督など上層部が、その選手を「使えない」と判断したかのどうかは正確にはわかりませんが、代表からは外れました。私が思うに、「使える、使えない」の違いは上層部からすると、計算できるか否かでもあるのでしょうね。計算ができる選手と、計算ができない選手は確かにいます。

 私ですか? 優秀な仲間がいるならば、計算が立ち、使える選手の部類に入っていたんじゃないかなと思います。周りに優秀な仲間がいなければごく普通どころか、並以下。なぜ、プロのサッカー選手になれたのかも、わからないくらい。だけど、上手い選手から順番にプロサッカーに入るわけでもないのです。きっと私は、チームの中でも接着剤のような役割だったのだと思います。選手と選手をつなげる働きをしていたんだでしょうね。

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