9月22日付のウォール・ストリート・ジャーナル紙は、「新彊モデルがチベットに来ている。北京は悪待遇を否定しているが、監視されない訪問者を禁止している」との社説を掲載し、対ウイグル弾圧のやり方がチベットにも適用されている、もしそうでないのなら、外からの人が自由に状況を見えるようにせよ、と中国を批判している。
この社説は、中国がウイグル人に対して行っていることをチベットでも行っていることを告発したものである。チベット人「弾圧」の様子は、チベット入域が厳しく制限される中、外からはなかなか窺い知ることができない。アドリアン・ゼンズは、中国の諸文書、メディアの報道をよく調べ、今回のジェームスタウン財団の報告書をまとめたが、こういう地道な作業は重要である。
彼の報告書を読んだが、チベットで新彊におけるウイグルに対する施策と同じことが行われているとまでは言えないように思われる。新彊では、警備の強化された強制収容所のようなものがあるが、チベットの「職業訓練所」はそれほどのものではない。新彊では、ウイグル族の若い女性に不妊手術が行われている(中国政府は否定せず、本人の希望によるとしている)との報道があるが、チベットについてはそういうことは報道されていないし、ゼンズも言及していない。
中国側の文書で明らかなのは、中国政府がチベット人を労働力として利用することに大きな関心を有しており、そのためにチベット人の意識を変えて、工場などでも働くように仕向けたいと考えていることである。それでイデオロギー教育や中国語教育を行い、愛国心を高めようとしている。中国政府はそれがチベット人の貧困状況の改善のためであると主張している。
中国は、今の傾向が続くと労働力不足に直面することは明らかであり、余剰農村人口の利用を考えることは当然であろう。しかし、チベット人の自発性、文化等を尊重したうえで行うべきことであり、強制的にそうすることはよろしくないだろう。
中国は、漢民族が90%以上を占めるが、少数民族も50以上いる。中国人は自治区その他で少数民族の文化尊重などを掲げているが、同化政策と少数民族の文化尊重の間のバランスが最近、同化政策に力点をおくように変化している嫌いがある。内モンゴル自治区の小学校では中国語で教育するなどはその表れだろう。
一度中国人とチベット問題を話し合った際、先方からあなたは原始奴隷制支持者ですかと言われたことがある。中国人の文化的優越感は極めて強く、それゆえに文化破壊に至る政策を「善意」で押し付ける危険性がある。
チベット情勢についても、今後、注意を払っていくべきだろう。
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