――IOCに拮抗するもうひとつの世界的なスポーツ組織と言えば、国際サッカー連盟FIFAですが、両者の違いとは?
小川氏:一番大きな違いは、FIFA主催の大会ではテレビの中継画面にスポンサーの看板が映ります。世界的な大会でこうしたことを採用したのは、1978年のサッカーW杯アルゼンチン大会が最初です。その他にも、82年のサッカーW杯スペイン大会、欧州選手権、欧州チャンピオンズカップ(現UEFAチャンピオンズリーグ)、カップウイナーズカップをすべてセットにし、これらの試合で広告宣伝を行う権利を販売しました。そのような長期間のパッケージで権利を売り始めたのもFIFAです。現在では、IOCも放映権をセットで販売しています。
しかし、オリンピックの中継画面には、選手が使っている製品以外の企業名は一切映っていない。オリンピック会場での一切の企業宣伝活動は禁止されているのです。選手が使っている製品についても、企業のロゴマークの大きさなどが制限されている。そのことが一番の大きな違いです。
――それでもオリンピックの公式スポンサーになるために約16億円以上の協賛金を出す企業がありますね。
小川氏:オリンピックの価値をどうお金に変えられるのかということをIOC委員はよくわかっていなかった。しかし、マーケティングの専門家から見ると、オリンピックというのは、世界中に知られていて非常にイメージが良い。競技ではドーピングのような不正には厳しい検査基準がありますし、古代からの伝統を引き継いでいる。プロスポーツのビッグイベントとはまた違うイメージの良さがあります。そのイメージそのものが商品価値を生み出すのです。
会場に広告は出せませんが、印刷媒体、テレビコマーシャル、街頭の看板などでオリンピックの公式スポンサーであることを宣伝できる。オリンピック運動を支援しているということだけで、オリンピックに対して世界中の人たちがもっている好感を、企業にも持つようになるのです。
オリンピック以外の世界的なスポーツイベントでは企業名がしっかりと露出し、いかに長く映るかということが商業的な価値を高めている。しかし、オリンピックでは会場内で商業活動ができないことで、他のスポーツイベントとの差別化が図られ、商業価値を生み出すことができるのです。