2024年4月21日(日)

オトナの教養 週末の一冊

2012年8月3日

――ロス五輪での大幅な黒字が、その後のオリンピック商業化を進めた要因でもあるのでしょうか?

小川氏:「ロス五輪の大幅な黒字が商業化のためだ」という理屈になりがちですが、そうではありません。ロス五輪の収入は約7億5000万ドルでそれ以前のモントリオール大会やモスクワ大会よりずっと少ないのです。それまでのオリンピックで行われていた集金方法である宝くじや寄付を採用しなかったからです。

 ではなぜ大幅な黒字だったのか。それは徹底してコストを抑えたからです。収入が少なくても支出を抑えることができれば黒字を出すことができます。官僚だったモントリオール大会の組織委員長とは違い、ユベロスは企業経営で成功した人物でした。

 オリンピックで予算が大きくなってしまう理由の一つとして、各競技団体からの要望があります。要望とは、「なるべく良い競技施設をつくってほしい」「参加する競技団体の役員がなるべく長く現地に滞在し、できるだけ高価なホテルに泊まりたい」といったものです。それまでの組織委員会はそうしたことをすべて受け入れてきました。というのも、たとえ世界的にはマイナーな競技団体の役員であっても、その競技団体の会長とIOC委員を兼ねている人もいます。そうした人は非常に力を持っており、下手をすればオリンピックを失敗に追い込むことができるような人たちです。

 しかし、ロス五輪ではそうした要求をそのまま認めることはしませんでした。なんとか低コストで開催しようとユベロスと彼の集めたスタッフたちは交渉しました。いかにコスト意識をもち運営することが大切かをユベロスが示しましましたが、その後の大会を見ているといかに収入を増やすかということだけが引き継がれているように思います。

――営利団体でないIOCはなぜ収入を極大化しようとするのでしょうか?

小川氏:やはりオリンピックというのは、4年後や8年後だけではなく、継続して開催していかなければならない。そのために財政的な基盤をしっかり確立したいということがあると思います。

 そして、もうひとつは、オリンピックは実際に開催してみない限り、どれだけのお金が掛かるかがわからないという事情もあると思います。ユベロスも自著で、天候などでコストはだいぶ変わると書いています。天候の変化で開催に支障を来すようなことがあるとしたら、お金での解決が可能ならば糸目をつけずに投入する。

 あとはテロ対策です。さまざまな事態を想定して、できるだけ潤沢な資金を用意しておきたいのではないでしょうか。その他に、96年のアトランタ大会から2000年のシドニー大会の間に、ISLというスポーツマーケティングの代理店で働いていたマーケティングの専門家をIOC内部に引き抜いたことも大きいと思います。


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