2022年12月7日(水)

日本再生の国際交渉術

2012年8月7日

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渡邊頼純 (わたなべ・よりずみ)

関西国際大学国際コミュニケーション学部長・教授

1953年生まれ。上智大学大学院国際関係論専攻で博士後期課程を単位取得満期退学。GATT事務局経済問題担当官、外務省経済局参事官などを経て2019年より現職。慶應義塾大学名誉教授。専門は国際政治経済論、GATT・WTO法、欧州統合論。近著に『詳解 経済連携協定』(日本経済評論社、監修)。

高まった欧州におけるTPPの認知度

 このようなEU主要国の慎重姿勢にもかかわらず、欧州委員会が日本とのEPA交渉に向けて動き出した裏にはやはりTPPがある。EUの貿易大臣に相当するデフフト欧州委員(元ベルギー外相)もアジア太平洋地域が世界経済の「エンジン」であるということを勘案すれば日本とのFTAは重要と記者会見で述べたと報道されている。これまで欧州におけるTPPの認知度は高くなかったが、2011年11月の日本の関心表明とそれに続くカナダ・メキシコの参加表明はTPPにおける「クリティカル・マス」(全体の趨勢を決定づける多数派)の形成をEU各国に印象付けている。

 イギリスの有力経済紙『ファイナンシャルタイムス』も「結ぶ価値のある貿易協定」と題する社説(7月23日)で日EUEPAのことを「貿易の世界において通商協定の新たなフロンティアを広げる」可能性のあるものとして支持している。同社説は輸入関税の撤廃だけではなく、規制緩和、基準認証、非関税障壁など幅広い問題を取り上げるよう主張しているが、これはTPPでも交渉項目となっていることである。

 このように通商交渉のメニューはTPPでも、対EUでも基本は同じである。日中韓EPAでも同様である。問題はその内容であり、「質」である。交渉相手の中で最も貿易障壁が高いのは中国であり、次は韓国である。その障壁をEPAで撤廃させるためには日本から相当の市場開放のオファーがなければ難しい。韓国は既に日本との膨大な貿易赤字を抱えているため二国間のEPA交渉を8年近く凍結したままだ。そうなれば日中韓EPA交渉で中国を動かすにはTPPでアメリカと組み、日EUEPAでEUと組むこと以外に手はない。

「通商3点セット」の優先順位

 このように考えてくると日本が「通商3点セット」をどのように優先付けするべきか明らかになる。

 まずカナダ、メキシコの参加が確定し勢いを増したTPP交渉に早急に参加し、次に日EUEPA交渉を早期に立ち上げ、その上で日中韓EPAに質の高い内容を盛り込むよう交渉をリードするという戦略が明確に打ち出されるべきである。最初のステップはTPP参加を9月上旬にウラジオストクにおいて開催されるAPECで明確に発表することである。今日本の「本気度」が問われている。国内調整、特に農業分野での対策が急がれるべきである。残された時間は少ない。

 (次回は日トルコEPAの可能性、米EUFTA構想などについて論じる予定です)

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