2024年11月22日(金)

日本再生の国際交渉術

2012年8月7日

高まった欧州におけるTPPの認知度

 このようなEU主要国の慎重姿勢にもかかわらず、欧州委員会が日本とのEPA交渉に向けて動き出した裏にはやはりTPPがある。EUの貿易大臣に相当するデフフト欧州委員(元ベルギー外相)もアジア太平洋地域が世界経済の「エンジン」であるということを勘案すれば日本とのFTAは重要と記者会見で述べたと報道されている。これまで欧州におけるTPPの認知度は高くなかったが、2011年11月の日本の関心表明とそれに続くカナダ・メキシコの参加表明はTPPにおける「クリティカル・マス」(全体の趨勢を決定づける多数派)の形成をEU各国に印象付けている。

 イギリスの有力経済紙『ファイナンシャルタイムス』も「結ぶ価値のある貿易協定」と題する社説(7月23日)で日EUEPAのことを「貿易の世界において通商協定の新たなフロンティアを広げる」可能性のあるものとして支持している。同社説は輸入関税の撤廃だけではなく、規制緩和、基準認証、非関税障壁など幅広い問題を取り上げるよう主張しているが、これはTPPでも交渉項目となっていることである。

 このように通商交渉のメニューはTPPでも、対EUでも基本は同じである。日中韓EPAでも同様である。問題はその内容であり、「質」である。交渉相手の中で最も貿易障壁が高いのは中国であり、次は韓国である。その障壁をEPAで撤廃させるためには日本から相当の市場開放のオファーがなければ難しい。韓国は既に日本との膨大な貿易赤字を抱えているため二国間のEPA交渉を8年近く凍結したままだ。そうなれば日中韓EPA交渉で中国を動かすにはTPPでアメリカと組み、日EUEPAでEUと組むこと以外に手はない。

「通商3点セット」の優先順位

 このように考えてくると日本が「通商3点セット」をどのように優先付けするべきか明らかになる。

 まずカナダ、メキシコの参加が確定し勢いを増したTPP交渉に早急に参加し、次に日EUEPA交渉を早期に立ち上げ、その上で日中韓EPAに質の高い内容を盛り込むよう交渉をリードするという戦略が明確に打ち出されるべきである。最初のステップはTPP参加を9月上旬にウラジオストクにおいて開催されるAPECで明確に発表することである。今日本の「本気度」が問われている。国内調整、特に農業分野での対策が急がれるべきである。残された時間は少ない。

 (次回は日トルコEPAの可能性、米EUFTA構想などについて論じる予定です)

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