2022年7月2日(土)

日本再生の国際交渉術

2012年8月7日

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渡邊頼純 (わたなべ・よりずみ)

関西国際大学国際コミュニケーション学部長・教授

1953年生まれ。上智大学大学院国際関係論専攻で修士号取得、博士課程後期を単位取得満期退学。専門は国際政治経済論、GATT・WTO法、欧州統合論。GATT事務局経済問題担当官、外務省経済局参事官などを経て2019年4月より現職。慶應義塾大学名誉教授。2015年4月より三菱ふそうトラック・バス株式会社監査役。

 鳩山政権下に一時期見られたように、日本が東アジアにより傾斜して「アメリカ離れ」をしてくれれば、EAFTAの重要性は高まり、逆にTPPの勢いは衰えるだろう。日本を東アジアに引きつけようと、昨年11月の野田首相のTPP発言以降、中国は従来は現実性が乏しいとしてまともに対応してこなかった日本提案の「ASEAN+6」や「日中韓投資協定」などにより柔軟に取り組むようになり、後者については今年5月に署名までこぎ着けている。また、日中韓FTAについても2012年中に交渉開始という合意ができている(前回掲載拙稿参照)。

 このように日本のTPP参加検討のアナウンスメント効果は実に大きかったのである。

日EUEPAに抵抗する欧州自動車業界

 アナウンスメント効果が大きかったのは対中関係においてだけではない。対EU関係においても然りである。

 2011年7月に発効したEU韓国FTAに追いつくべく、日本はEUとのEPA交渉にのり出したいところだが、EU側は自動車業界を中心に抵抗勢力が強い。欧州自動車工業会のマルキオーネ会長(イタリアのフィアット社CEO)は「FTAは欧州にとって不利だ」と不満を隠さない(7月19日『日本経済新聞』)。加えて欧州金融危機に起因する経済の不透明感、成長の鈍化により人員削減や工場閉鎖に追い込まれるプジョー・シトロエンやドイツ・オペルなどの自動車メーカーも出てきている。このような状況下、欧州自動車業界が日EUEPAに前向きになる理由は見当たらない。

 そもそもEUの自動車関税は10%と日本の0%、アメリカの2.5%と比べても相当高い。韓国の自動車関税は8%だから、10%のEUとの取引は成立するが、関税が既にゼロである日本とは交渉立ち上げすら困難なのも理解できる。プラズマ・テレビなどではEU側の関税が14%、日本側はやはり0%とその開きはさらに大きい。

 このような関税構造がある中で、関税撤廃が欲しい日本に対してEUは何を要求してきたのか?それは、非関税障壁、政府調達、農産品市場の三分野における日本側の「ダウンペイメント(前払い)」であった。日EUにおいては明らかに日本側が「ドゥマンドゥール(demandeur・要求する側)」であり、水を飲みたがらない馬を水辺に誘うような困難さを伴った。いわば日本は交渉開始のための「敷金・礼金」の類の支払いを求められた形だ。

 この「事前交渉」は「スコーピング・エクササイズ」(scoping exercise)と命名されたが、極めてヨーロッパらしくエレガントな名称だ。その中身は“スコーピング”=交渉範囲の決定というよりは日本がどこまで前述の三分野でEU側を満足させられるかという点に絞られていた。

 この事前交渉は2011年5月から約1年間続けられ、今年の5月末欧州委員会はその終了を閣僚理事会に報告した。それを受けて通商担当の閣僚理事会は欧州委員会に対し交渉マンデートの作成を指示、7月18日から欧州委員会は加盟国との本格調整に入ったが、ドイツやフランスを含む9カ国が難色を示しており、交渉の早期開始を危ぶむ声もある。

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