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Washington Files

2020年10月26日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。著書に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

「アメリカの台湾支持はあいまいでないものにすべき」

 しかし過去数年、中国による南シナ海での軍事プレゼンス強化、台湾海峡周辺での演習活発化などの動きが目立ってきたことを受けて、米国内の有識者、専門家の間で、こうした従来の立場の見直しを求める声が挙がってきた。

 そのひとつの顕著な例が、権威ある超党派の研究組織として知られる「外交問題評議会Council on Foreign Relations」のリチャード・ハース会長理事長らが学術誌「フォーリン・アフェアーズ」に発表した論考(9月2日付)だった。

 「アメリカの台湾支持はあいまいでないものにすべきだAmercan Support for Taiwan Must Be Unambiguous」と題するこの小文の中で、同氏らは以下のように述べている:

 「米政府は民主、共和を問わず過去40年にわたり、中国による台湾侵攻にいかに対応するかについての確答を拒んできた。アメリカが傍観するかどうか定かでないこの意図的あいまい性は、中国による台湾統一の企てを回避させ、他方で台湾による独立宣言を思いとどまらせるのに役立ってきた。しかし、もはやその時期は終わった。今日、曖昧性によって中国の強大化する軍事力を背景とした進出拡大を抑止できる可能性は少なくなっている。

 今や『戦略的鮮明性strategic clarity』政策を採用すべき時が到来した。すなわち、台湾に対するいかなる軍事力行使にもわが国が即応することを明確にすることだ」

 「この政策転換は、従来からの『一つの中国』原則に沿って達成でき、かつそれによって、米中関係全体へのリスクを最小限にとどめることが可能となる。それどころかむしろ、政策転換は抑止力を向上させ、米中衝突のホットスポットになり得る台湾海峡での戦争リスクを軽減させる結果、長期的に見て米中関係強化にも利することになる」

 「かつては台湾の軍事支出と軍備が中国を上回った時代があったが、すでに遠い過去の話であり、今日、中国の軍事予算は台湾の15倍、台湾攻撃のための兵器類も、台湾防衛に備える米軍装備とほぼ対等になった。中国はすでに米国の利益と台湾の将来を脅かすだけの十分な能力を備えているだけに、果たして台湾海峡での戦いへと発展した場合、米側が優位に立てるかどうか不確かなものとなり、むしろ状況は中国により有利になりつつある。従って、アメリカとしては台湾海峡での紛争に備えるために思い切った資源を振り向けない限り、(中国による台湾支配という)新たな『既成事実a fait accompli』を防ぐ可能性はほとんどなくなってしまう」

 「とくに近年、習近平体制は台湾海峡での軍事演習を活発化させると同時に、諸外国に対し台湾の国際的孤立のための外交攻勢をかけ始めている。早ければ2021年中にも台湾のか“再統一”という『中国の夢』実現のため、あらゆる可能な手段を講じるとの憶測もある。台湾が“次なる香港”となるシナリオを決して無視すべきではない。このような時にもし、アメリカが中国による軍事力行使に対応しないならば、日本、韓国などの同盟諸国が『アメリカは信頼に値せず、アジア太平洋地域から手を引き始めた』と判断し、その結果として対中国融和へと方向転換することにもなる」

 上記のような米国における注目すべき論調に素早い反応を見せたのが台湾側だった。とくにワシントンに事務所を置く駐米経済文化代表部の簫美琴代表(シャウ・ビィキム)(駐米大使に相当)は、今月15日付けワシントンポスト国際マガジン「Today’sWorldView」とのインタビューでリチャード・ハース氏らの提言に言及「(現状のままでは)偶発的事件や誤算を引き起こすリスクがある」として、「中国による軍事力行使は容認できず、台湾海峡地域には安定と平和を共に求める複数のステークホルダー諸国が存在するとの明確な立場が求められる」として、これに同調する立場を示した。

 これに対し、ポンペオ国務長官は同月22日記者会見で「アメリカの台湾政策は今日に至るまで変化はない。しかし、中国共産党は台湾海峡における平和と安定維持に対するコミットメントを尊重することを望む」と述べるにとどまった。

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