2024年4月19日(金)

Washington Files

2020年10月26日

中国側にとってとくに気がかりな材料
次期政権での国防長官

 しかし、問題はバイデン民主党政権が誕生した場合の出方だ。この点、中国側にとってとくに気がかりな材料が前途に立ちはだかっている。それはすなわち、次期政権で国防長官就任が最も有力視されるミシェール・フローニー元国防次官の対中強硬論だ。

 フローニー女史は、2016年大統領選当時、ヒラリー・クリントン候補が当選した場合の国防長官の最有力候補と目されていたほか、トランプ政権発足当初も、ジェームズ・マチス国防長官(当時)が副長官への就任を要請したものの、トランプ外交全般に対する立場の違いと「道徳的理由」からこれを固辞したこともある。それだけ経験と力量は専門家の間でも高く評価されてきた。

 そのフローニー女史が今月2日、アジア外交誌「The Diplomat」とのインタビューで、毅然たる対中姿勢を表明したことは、中国側にとって穏やかならざるものがあった。

 同女史はまず、トランプ政権の対中国政策について、主として貿易・関税問題に焦点を当てた「近視眼的アプローチ」であり、さらに「二国間の問題としてとらえているため、有効に機能していない」と酷評、これにとって代わり「同盟・友好諸国との広範囲な連帯の構築」の必要性を強調した。そしてとくに近年の中国の動きについて「強大な経済力の下に、アメリカの反対を押しのけるだけの軍事力をつけ、力ずくで(台湾を含む)近隣諸国を自陣に取り込むためにその影響力を行使している」と指摘した。

 その上で、今後10年間にペンタゴンが直面する安全保障面のチャレンジに言及、「軍事力の追加投入、兵力近代化、現状の戦時態勢の確実化という“鉄のトライアングル”をどううまく調整し、バランスをとっていくかだ」と説明した上で、「戦闘力を強化しつつある中国に向き合うためには、軍事技術面での優位性を確保する必要がある」と述べた。

 同女史は、この「軍事技術面の優位性」については、すでに「フォーリン・アフェアーズ」誌今夏季号への寄稿文の中でさらに踏み込んで以下のように論じている:

  1. 過去20年間に中国人民解放軍は、規模のみならず、能力および信頼性においても著しい進展を見せ、とくに軍事的優位性を決定づける軍事技術面では、アメリカと対等に立つに至っている。
  2. 一方のアメリカは、抑止力に対するクレディビリティの低下を招くと同時に、とくにトランプ政権発足以来、同盟関係の軽視、TPP(環太平洋経済連携協定)など国際組織や世界からの撤退によって戦略的空白を生じさせ、それにつけこむ形で中国が優位性を確保するに至った。
  3. こうした中、中国は軍事技術、サイバー技術能力の向上を背景に、台湾海峡においても、アメリカの対応があいまいなままの今の状況こそ有利と判断して、早期に軍事侵攻に打って出ることもあり得る。
  4. しかし、もしアメリカが有事の際に、南シナ海に展開する中国軍艦船、潜水艦、商船すべてを72時間以内に壊滅できる能力を備えることになれば、中国指導部は海上封鎖または台湾侵攻を思いとどまると思われる。
  5. そのためにペンタゴンとしては、早急にAI(人工知能)、無人兵器システムなどの最先端技術の最大限活用、発展に注力しなければならない。
  6. 同時に、アジア太平洋において中国の脅威と対抗するために、「多層安全保障協力体制」の構築を含む同盟・友好諸国との関係強化が求められる。

 なお、フローニー女史は早くから中国の軍事的脅威拡大に警鐘を鳴らしてきた論客としても知られ、オバマ政権時代にアメリカが中国と向き合うために、それまで振り向けてきた中東方面への米軍事力を重点的に思い切ってアジア太平洋方面に投入するいわゆる「アジア回帰pivot to Asia」戦略の立案に中心的役割を担ってきた。

 それだけに、中国としては、もしバイデン政権が発足し、フローニー女史が一手に国防政策を仕切ることになった場合、難しい対応を迫られることは必至とみて、警戒を強めている。

 バイデン政権下の国防長官としては、フローニー女史のほか、オバマ政権の下で国連大使、大統領補佐官を務めたスーザン・ライス女史、同政権(1期目)で国防次官を務めたタミー・ダックワース上院議員らの名前も挙がっているが、いずれも対中強硬派として知られているだけに、中国側としては気を抜けない局面に立たされている。

  
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