2024年4月27日(土)

WEDGE REPORT

2020年11月18日

「嘘ばっか言ってんじゃない!」「だまれ!」

 バイデンの人柄については、トランプと比べて大人な政治家のイメージがある。実はキレやすい側面もある。2019年12月、アイオワ州の遊説先で聴衆からバイデンの息子がウクライナで汚職をしたという疑惑について質問され、感情的に「あなたはひどい嘘つきだ」と声を荒げ、さらに「あんたには投票しない」と言われたことで「あんたは私に投票するには年寄りすぎるよ」と語った。2020年3月にデトロイトの自動車工場を訪問したバイデンは、従業員から「憲法修正第2条(銃器を保有や所持する権利の根拠とされる憲法)の権利を積極的に阻止しようとしているではないか」と非難され、「嘘ばっか言ってんじゃない!」「だまれ!」とキレた。

 もう一つ、バイデンの過去で特筆すべきは、セクハラ疑惑だ。2019年4月には、「MeToo運動」が話題になっていたこともあり、元スタッフから、27年前にセクハラされたと告発された。それ以外にも何人か、不快な感じでハグやキスをされたなどと名乗り出たが、大ごとににはならなかった。

 バイデンは、他人との距離感が近いことがあったことを認め、「常によい人間関係を築こうとしていたからだ」と潔く認めている。その上でこう述べた。「私は、個人のスペースの境界線はリセットする。わかった。わかった。みんなが指摘していることはよくわかった。さらに心に留めて、私の責任として距離感は守る」

ワシントン大統領選当日の午後_奥に見えるのがホワイトハウス

対中関係よりも懸念の外交実績

 バイデンは中国とも積極的に交流を行なっていたことから、トランプは遊説でも、バイデンが中国に近すぎると批判した。バイデンが、胡錦濤国家主席の隣で「中国の台頭はいいことだ」と話したり、「中国が繁栄するのは米国の国益にもかなう」と語っているビデオを紹介した。事実、その点を突かれたバイデンは、中国は「敵ではなく競争相手である」と語っている。これまでも、バイデンは中国には融和的だったのは確かである。

 だがそれはアメリカ自体が中国を今のように敵視していなかったことが背景にある。バイデンが上院議員としてのキャリアをスタートさせたのは、1972年にリチャード・ニクソン大統領が中国を電撃訪問して国交を正常化した翌年の73年のこと。それから米国は中国を経済的に解放させながら、常に上から目線で、中国は自分たちでコントロールすることができるという認識で付き合ってきた。

 それが間違いだと気が付いたのは、2015年のこと。習近平政権が、「中国製造2025」をぶち上げて、世界の工場から世界を率いるようなイノベーションを起こせる国になると主張したときだった。5GやAIの分野などで2025年には世界を率いる存在になるべく国家を挙げて動き、中国共産党革命100周年になる2049年の世界制覇に向けて大きく踏み出すとの姿勢を明らかにした。当時、オバマ政権で副大統領だったバイデンもその流れは明確に把握しているはずだ。だからこそ、バイデン政権になっても中国に対してソフトになることはないと関係者らは強く語っているし、中国側もバイデンを与し易いとは見ていない。

 要するに、バイデンがそれまで中国とお気楽に付き合っていたとしても罪はないと言える。今回の選挙戦線では、ロシアは脅威だが中国は競争相手と言ってみたり、「習近平の辞書に民主主義という言葉はまったくない。悪党だ」と語っている。中国にソフトに行くことはないだろう。

 それよりも気になるのは、ジョージ・W・ブッシュ時代からバラク・オバマ時代にも国防長官を務めたロバート・ゲーツは、「過去40年の間にバイデンが行った外交的な決定はすべて間違っていた」と述べていることだ。

 例えば、米国的には成功とされる1991年のイラク戦争に反対。米同時多発テロ後の2002年のイラク戦争への武力行使に賛成し(今は反対したと主張している)、泥沼化したイラクで2007年の「サージ(戦闘部隊の増派)」にも反対したが、その作戦がイラクの泥沼を終わらせたと言われている。2011年には国際テロ組織アルカイダのウサマ・ビンラディンの殺害作戦に反対したという。

 こうした懸念があるものの、外交については側近などの影響もあるし、時代も変わっていくことから、これからの決断に注目したい。

 1月20日に大統領に就任してから、おそらくバイデンの過去に見られる、失言や短気な「特徴」はちょこちょこ表面化する可能性はある。今回、バイデンに投票したというワシントン近郊メリーランド州で選挙ボランティアをしていたアルバ・キャストロは筆者にこんなことを言っていた。「失言などがバイデン大統領の足を引っ張らないといいのだけど」

(文中一部敬称略)

  
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