WEDGE REPORT

2020年9月15日

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山田敏弘 (やまだ・としひろ)

国際ジャーナリスト

講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本誌などを経て、米マサチューセッツ工科大学(MIT)の客員研究員として国際情勢やサイバー安全保障の研究・取材活動に従事。近著に『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)、『サイバー戦争の今』(ベスト新書)。

 最近、欧米企業によって人工衛星が次々と宇宙に打ち上げられている。その主な目的は、衛星ナビゲーションシステムの精度向上や衛星通信システムの改善、天候や気候変動の監視能力向上などだ。また現在インターネットのほとんどは、海底ケーブルなどの光ファイバーと末端のWi−Fiで接続されているが、人工衛星を使えばいまだネットに繋がっていない広範囲をカバーできる。

 だが同時に、地上からのサイバー攻撃の危険性も指摘されており、まだ大きな実害はないが、すでに以前から事例は起きている(下表)。衛星を停止させられたり、不正操作されることで、地上のインフラなどにも影響を及ぼしかねない。

(出所)筆者取材を基にウェッジ作成 写真を拡大

 最近懸念されているのは、小型の人工衛星だ。大量に宇宙空間に溢れかえることでコントロールも大変になる。また使われる機器のサプライチェーン企業が狙われ、攻撃者らがそこを足がかりに人工衛星への攻撃を狙っている。

 衛星によって実用化されたGPS技術も、サイバー攻撃に晒されている。妨害電波やハッキングによって飛行機や船舶、インフラ機器などを混乱させたり、時計をずらして地上で混乱を起こすこともある。

 さらには衛星の軌道を不正操作して別の衛星に衝突するように仕向けたり、宇宙ステーションを襲うような事態も懸念されている。そんなSF映画のような攻撃が現実に可能なのか。欧米の専門家らによれば、地上から人工衛星と通信する制御システムをサイバー攻撃したり、高出力のアンテナなどを使えば、直接、人工衛星を攻撃することも可能だという。

資金が守備に回らない
トランプも危惧するGPS依存

 危険が存在しているのに、現実にはサイバー攻撃への対策が十分に行われていないのが実態だ。前出の専門家によれば、民間企業もコストダウンなど資金面の問題があり、対策にまで手が回っていない。機能性を優先するために、システムの暗号化も行われておらず、データも傍受されやすいという。

 サイバー攻撃への弱点を検知するのにも技術的な限界がある。米国防総省ですら、対策が不十分だと自覚しており、今年開催予定だった世界的なホワイトハッカーのイベントでは、実際にハッカーらに人工衛星を攻撃させて脆弱性を見つけさせるプログラムを予定していたほどだ(新型コロナの影響によりイベントは中止に)。

 今年2月、トランプ政権はGPSがサイバー攻撃などに脆弱なため、その依存度を下げるよう大統領令を出している。米国のように、まず各国政府がその危険性をはっきりと認識し、対策の検討を始める必要がある。安全保障に不可欠で、生活の利便性を高める衛星だが、サイバー防衛力を高めることも同時に重要になる。

Wedge9月号では、以下の特集を組んでいます。全国の書店や駅売店、アマゾンなどでお買い求めいただけます。
宇宙が戦場になる日
PART 01         月は尖閣、火星はスカボロー礁  国際宇宙秩序狙う中国の野望
PART 02         遠のく米中の背中  ロシアの生き残り戦略   
CHRONOLOGY  新たな文明を切り拓くカギ  各国の宇宙開発競争の歴史と未来  
PART 03         盛り上がる宇宙ビジネス  日本企業はチャンスをつかめ    
COLUMN         地上と同様、宇宙空間でも衛星を狙うサイバー攻撃
INTERVIEW      「宇宙」を知ることで「地球」を知る   山崎直子(宇宙飛行士) 
PART 04         守るべき宇宙の平和  日本と米国はもっと協力できる 

  
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◆Wedge2020年9月号より

 

 

 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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