世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年12月25日

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 RCEPやCPTPPといった大規模な自由貿易協定が進展する中、米国は保護主義政策を続けてきた。トランプ政権は、強硬な輸入関税措置をとり続けてきた。特に中国に対して、2018年7、8、9月に第1弾から第3弾の輸入関税を付与したのに続き、2019年5月には、携帯電話など3000億ドル相当の中国製品に対し最大25%の追加関税を付すと発表した。これで米国に輸入されるほぼすべての中国製品に関税が課せられることとなった。

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 12月11日付けワシントン・ポスト紙掲載のファリード・ザカリア(同紙コラムニスト)による論説‘Global trade is booming — just without the U.S.’は、「トランプは製造業の雇用を米国に戻すと言ったが、実際はトランプが就任してから製造業の職の割合は変わっていない。トランプは中国とメキシコが関税引き上げ分を負担すると言ったが、実際負担したのは米国の消費者であった」、「雇用を維持するためのコストは目を見張るものがあった。例えば製鉄業で雇用を一つ維持するのに、米国の企業と消費者は90万ドル払った。中国の市場を失った農民の所得は何百万ドルという巨額の補助金で支えられた」などと指摘し、トランプの貿易戦争は惨めな失敗であると酷評している。ザカリアの批判は誇張とは言えないだろう。

 トランプは「タリフマン(関税男)」と称されているように関税に執念を持っている。トランプは2019年の保守系活動家との会合で関税が「我が国の歴史において最も素晴らしい交渉手段」であると評したと報じられており、関税を相手国から譲歩を引き出す有効な手段と考えているようである。そのうえ、トランプは貿易赤字を、外国が売りたいものを米国に売り、米国人につけ入っているとして目の敵にしており、貿易赤字を減らすため輸入に関税を付す必要があると考えている節がある。

 中国からの輸入品のほぼ全部に対する関税の賦課は、米国に様々な負の影響を与えている。フィナンシャル・タイムズ紙は、輸入関税を「輸入税」と称している。関税によって輸入品の価格が上がり、米国の各家庭に1年1000ドルの負担を強いている計算になるとのことである。これは言ってみればトランプによる増税である。

 また米国の中国からの輸入の60%はいわゆる中間財で米国での生産に使われる。輸入関税増で米国の製品の価格がそれだけ高くなり、消費を冷やすことになる。このように中国製品に対する輸入関税は、米国経済の足を引っ張る結果を生んでいる。

 米外交問題評議会のShannon K. O’Neilは、フォーリン・アフェアーズ誌最新号の論文‘Protection Without Protectionism(保護主義なき保護)’で「米国は自由貿易がありすぎるのではなく少なすぎる。米国の企業は世界の消費者の10%以下にしか優先的なアクセスを持っていない。それに対しメキシコとカナダは世界市場の50%に優先的なアクセスを持っている」と指摘している。上記ザカリア論説は、これを「真の回答と思われる」と評価する。米国は、極端な保護主義がもたらした弊害が目立ち、自由貿易のメリットに再び目を向ける必要に迫られているように思われる。

 こうした中、バイデン次期大統領の通商政策が、トランプ流の保護主義から、しっかりした国際協調に転換されるのか、注目される。バイデンは11月16日の記者会見で「中国に対抗する必要がある」と明言したが、制裁関税などの「懲罰的な手段は採用しない」と述べた、と報じられている。中国に「対抗」はするが「対決」はしないということであり、米中間の緊張は和らぐものと考えられる。RCEPの影響を問われて、「中国に対応して国際貿易のルールを作るには、ほかの民主主義国家と連携する必要がある」と述べたと報じられている。

  
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