世界的に自動車の電動化が推進されている。このままで行くと世界の多くの国や地域で2035年以降のガソリン・ディーゼル車両の販売が禁止となりそうだ。もちろん路上からいきなりこうした車が消えるわけではないが、いずれ消滅するのは間違いない。
ガソリン・ディーゼルに代わるものとして脚光を浴びているのがEV(電気自動車)、FCV(燃料電池車)の存在だ。HV(ハイブリッド)もしばらくは生き残るだろうが、脱炭素化の流れの中でやはりEVやFCVが中心になるだろう。
そんな中、自動車ビジネスの伝統も崩れつつある。ビジネスモデルを崩壊させたのはもちろんテスラだ。ディーラー網を持たず、自社や提携する修理工場でサービスも行う、という手法は米国内では反発もあるが、ユーザーからは支持されている。ディーラーという仲介を通すことで車体価格の上乗せがなくなり、スマホアプリひとつで購入、ローン、保険、メンテナンス管理まで出来る便利さをユーザーは評価した。特に今年はコロナで直接の接触を避ける傾向が強く、ディーラーに出向かなくても車が買える、という経験が人々の購買行動にも影響している。
またIoTやスマホアプリビジネスが発展した結果、オンデマンドの車関連のサービスも浸透しつつある。中でも注目されているのが2015年にカリフォルニアで設立されたYOSHIという企業だ。日本ぽいネーミングではあるが、創業者はブライアン・フリスト氏という米国人だ。
YOSHIは元々オンデマンドのガソリン配達サービスとして始められた。忙しくてガソリンスタンドに給油に行く時間がない、という人のためにいつでもどこでもガソリンを運び、その場で給油する、というもの。そこから徐々にビジネスが広がり、洗車から今では修理サービスも行っている。
このYOSHIに、ゼネラル・モータース(GM)が2300万ドルの投資を行ったことが話題となっている。GMは今年6月からデトロイト周辺に勤務する社員全員に対しYOSHIの月会費を負担し社員のサービス利用を促してきた。YOSHIもGMのためだけにミシガンでサービスを開始する、という協力ぶりを見せてきた。
なぜGMがYOSHIに投資、協力することが話題なのかと言うと、これはGM傘下のディーラーの利益に反する行動とも取れるためだ。本来車の修理メンテナンスなどはディーラーが行う。YOSHIを利用することで人々がディーラーを訪れる回数が減り、ディーラーのサービス収入が減少する可能性がある。
またGMは全国のキャデラックディーラーに対し、「EV導入に向けた設備投資を行うか、あるいはディーラー権をGMが買い戻すか」という通告を行った。キャデラックは10年以内にすべてのモデルがEV化されることが決定しており、ディーラーにはおよそ20万ドルかかるEV対応の設備投資が求められていた。この中にはEV用チャージステーションの建設やEV専用の修理メンテナンス設備も含まれる。
全米のキャデラックを扱うディーラーはおよそ900軒だが、これまでに150軒がGMによるディーラー権買い戻しに応じる、あるいはGMの他のブランドは扱うがキャデラックの取り扱いは外すことを決定している。設備投資に見合っただけの売上が見込めない、EVの普及はまだまだ先、というのがその理由だ。