Washington Files

2021年1月18日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

トランプ大統領が、議事堂乱入・占拠事件に関連した「扇動教唆」の罪に問われ、在任中2度目の弾劾訴追を受けた。同政権の4年を一言で総括すれば、「政策を嘘で固めつくし国論をかく乱した専制政治」ということになろう。

(Philip Rozenski/gettyimages)

 実際、内外の学者、専門家の評価は「過去45人の歴代米大統領中、突出した欺瞞政治家」という点で一致している。

 歴史家でとくに大統領史に詳しい米ライス大学のダグラス・フリンクリー教授は、カナダ・トロント・スター紙とのインタビューで「過去の米大統領が嘘をつき、国民を欺いてきたケースは少なくない。しかし、トランプほどの『連続した虚言者serial liar』は彼が初めてだ。たとえそれが、どんなに狂気じみたことであれ、巧みな言辞ででっち上げ、人民に受容させてきた独裁者といえる」と論評している。

 ニューヨーク精神分析研究所のドンネル・スターン博士は、精神分析国際ジャーナル誌「Psychoanalytic Dialogue」への寄稿文の中で「政治家が事実を拡大して政治を行うことは予め想定されたことである。だがトランプは、まるで異なる動物だ。なぜなら彼は、嘘をつくことそれ自体を自分のポリシーとしてきた。支持者と自分自身を満足させることならどんな嘘でも平気でつく希代の政治屋だ」と述べている。

 また、英オックスフォード大学「ロイター・ジャーナリズム研究所」のハイディ・スキーセス女史は機関誌の中で「虚言は国を問わず、政治および政治コミュニケーションのツールとしてその中に組み込まれてきた。しかし、トランプは米国史上かつてないスケールと頻度で虚言を垂れ流し続けてきた。この点で、フランス政治史においても、トランプに匹敵する政治家は過去にも現在にも存在しない」と評している。

 過去の米大統領を振り返れば、米軍機が旧ソ連領空を侵犯、撃墜された「U2スパイ機事件」(アイゼンハワー)、キューバ・カストロ政権転覆を狙った軍事作戦で失敗した「ピッグズ湾侵攻事件」(ケネディ)、ベトナム戦争における「トンキン湾事件」(ジョンソン)、ウォーターゲート事件での「もみ消し」(ニクソン)、ホワイトハウス実習生との女性スキャンダルで弾劾を受けた「モニカ・ルインスキー事件」(クリントン)、イラク侵攻に先立つ「大量破壊兵器秘匿問題」(G.W.ブッシュ)などが、国民をだまし真実を隠蔽した事件として記憶に新しい。

 しかし、これらの大統領の場合は、特定の事案における1度ないし数回程度の事実と異なる発言、隠蔽に限られていた。

 これに対し、トランプ大統領の場合は、就任当初から任期最後まで一貫して嘘を平気で並べ立ててきた点で、まさに前代未聞だ。

 ワシントン・ポスト紙は、就任以来のトランプ発言のすべてについて事実関係を検証する特別プロジェクトを立ち上げ、「ファクト・チェッカー・データベース」に記録してきた。それによると、「まったくの嘘または誤解を招く発言」は昨年11月5日時点で、なんと2万9508回に達した。これを単純計算すると、1日当たり約20回もツイッターやテレビ番組などで虚言を繰り返してきたことになる。すなわち「トランプの嘘」は彼の日常のライフスタイルの一部と化していたとさえ言えよう。

 これらの無数の虚言のうち、主なものをいくつか振り返ってみる。

 トランプの虚言は就任前、大統領選に出馬した2015年半ばからスタートした。

 とくにマスコミを賑わせたのが、オバマ前大統領についての「出生地疑惑bertherism」だった。すなわち、トランプは前任者の評判や実績を貶めるため、「アフリカ生まれにもかかわらず隠ぺいしたまま大統領になった」との陰謀論を右翼メディア、自分のツイッターなどで拡散させた。実際はハワイ出身であり州移民局も出生記録で確認済みだったにもかかわらず、その後も「アフリカ出生説」を流布し続けてきた。

 翌年選挙戦が本格化してからは、民主党の対立候補ヒラリー・クリントン“口撃”を開始、「彼女は私的メール使用問題でFBIに何度も嘘をついてきた」など事実無根の主張を繰り返してきた。FBIは否定してきたが、この嘘はネットなどを通じ瞬く間に全米に拡大、クリントン候補にとってはこれが選挙戦の最後まで致命傷となり、敗退の憂き目に会った。

 2017年1月大統領就任とともに、虚言癖はエスカレートした。ロシアがプーチン大統領の直接指示で米大統領選に関与したことがFBI,CIA,DIAなど米情報機関の本格調査で結論付けられたにもかかわらず、「自分は調査を信じない」と否定し続け、自国の最高機密機関の判断よりロシア大統領の主張を重視する奇妙な状況となった。

  2019年9月、大統領をめぐる米議会弾劾審議が本格化すると、ロシアの立場をかばう目的で「2016年大統領選に介入したのはロシアではなく、ウクライナ」との陰謀説をツイッターなどで拡散させた。

 2020年2月、新型コロナが全米に拡散し始める中で「コロナはインフルエンザほど深刻ではない」「春先には終息する」「夏休みまでには収まる」「レーバーデー(9月)連休中にピークを過ぎる」「サンクスギビングデー(11月)までには終わる」などと科学的根拠のない自説を拡散、国民の警戒感をゆるめさせ、結果的に世界で突出した感染者数、死者数を出す悲惨な状況を作った。

 そして同年11月、再選めざす大統領選での敗北を受け、あらゆる手段を尽くし拡散させた大ウソが「大統領選の巨大不正」だった。

 再選を果たすための重要州とみられていたミシガン、ペンシルバニア、ウイスコンシン3州での敗北が明らかになった11月4日以降、「投票開票マシン自体が民主党の意を受けたメーカーで製造されていた」「トランプ支持票が意図的に廃棄された」「バイデン支持票が2度、3度重複してカウントされた」などのデマを自分のツイッターで何度も発信した。

 南部における共和党の拠点ジョージア州においても、手作業による得票数の3度にわたる数え直しが行われ、バイデン候補の勝利が確認されたにもかかわらず、最後まで敗北を認めず「自分は50万票差で勝った」「州選管は生存しない何千人もの死者をバイデン票として加算した」など全くでっち上げの嘘を繰り返した。

 トランプ陣営は州および連邦裁においても「大規模不正があり、選挙を略奪された」として、その不当を訴えた。訴訟回数は56回にも及んだが、2度におよぶ最高裁判定含めすべて敗訴に終わった。

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