Washington Files

2021年1月11日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

 次期米大統領の正式認証という記念すべき日に、トランプ大統領にそそのかされた暴徒がアメリカ・デモクラシーの象徴、米議会に乱入した。世界の恥さらしとなる目を覆いたくなるような歴史的汚点を残した。

議会に不法侵入したトランプ支持者(REUTERS/AFLO)

  1月6日白昼。「近代民主主義模範国」を自認する世界最強国家の最高指導者が、大統領選での敗北を否認し続け、ホワイトハウス前に集まった熱狂的支持者たちに「力ずくで結果を覆せ」とこぶしを振り上げる。興奮した群衆は、かつて奴隷制撤廃に反対し北軍と戦った時の南軍旗や現大統領の名を刷り込んだ小旗を振り回し勇んで連邦議事堂まで行進する。そのまま次期大統領を正式承認するため開会中の本会議場内に野球バット、先のとがった角材、保身用盾、化学剤スプレー、手錠などで身を固め乱入。

 危険を察した議員たちが凶弾から身を隠すかのように一斉にフロアや椅子の下にかがみこむ。あるいは逃げ惑う。暴徒の一部は、下院議長執務室を占拠、調度品、机上の重要書類をひっくり返す。歴代大統領の彫像が立ち並ぶ神聖なホール内を勝ち誇ったように喚声を上げながら練り歩く。議事堂内のドアや窓を角材や椅子で叩き壊す……結局、制止する警察隊との衝突による死者が警官1人含め双方で5人、負傷者多数、逮捕者最低数十人の悲惨な事態に。

 過去何度も、世界の途上国や独裁国家の政争でこそ見慣れたシーン。だが今まさにアメリカで、建国の礎となった連邦議事堂が、軍事クーデターまがいの騒乱のターゲットとされたのだった。過去には米英戦争(1812-1815年)の最中に、英国軍部隊による攻撃を受けた歴史はあるとはいえ、平時にしかも米国内の暴徒に一時占拠されるとは、まさに空前絶後の事態にほかならない。そしてなんとそれを、議事堂から1キロ先の同じペンシルバニア通に面したホワイトハウスの主が扇動したとは―。

 首都ワシントンの全域にも夜間外出禁止令が敷かれた大混乱から一夜明けた翌7日、与野党議員や閣僚の間から、ただちに大統領の責任を問う声が一斉に高まった。反響の大きさにたじろいだトランプ氏は、ビデオ動画配信で3分間の釈明の声明文を読み上げる:

 「私はこれまで大統領選挙結果に異議を唱え、選挙の信頼性確保のために法律に依拠したあらゆる道を追求してきた。今でも選挙法の改正が必要なことを信じているが、議会が選挙結果を認証した以上、政権移譲が20日に実施される。今、感情を冷まし、平静を回復しなければならない。私はスムーズで秩序ある政権移行のために集中する。昨日、議事堂に押しかけ暴力と破壊行為に出た暴徒に言うが、君たちはわが国の代表者ではない。法を犯した者たちはその償いをしなければならない……」

 だが、これまで何万回となく自らのツイートやテレビ会見でウソ、虚構を並び立ててきた(ワシントン・ポスト紙追跡調査)ことで知られる大統領だけに、この釈明を真に受けて聞き入った人は少なく、また、自らの責任に触れる言葉は一片もなかった。

 しかしこれは、騒乱に先立つ集会での自身の発言にほうかむりし、他人事のような責任逃れの弁解であり、暴動を大統領自らが挑発したことはだれの目にも明らかだった。なぜなら前日、ホワイトハウス前集会では1時間以上にわたり興奮気味にこう演説していた:

 「民主党が勝利したのは、くそったれの集積以外のなにものでもない。われわれは(大統領選挙を奪われた)現実をもはや容認しない。選挙結果をくつがえさなければならない。絶対に勝利をあきらめてはならない。これから連邦議事堂に向け行進するが、みんなでわが方の力強さをみせつけてやれ。断固として戦い続けるのだ……」

 真っ先にトランプ大統領の責任に言及したのは、ナンシー・ペロシ下院議長だった。報道陣を前に「ただちに彼を大統領の座から引きずり下ろすべきだ。さもなくば、チャック・シューマー上院院内総務にも持ち掛け、弾劾に持ち込む」と怒りをあらわにした。その後、シューマー氏も弾劾審議を支持する声明を出した。

 共和党側でもミッチ・マコーネル上院院内総務が、暴徒乱入で一時中断された合同会議審議再開後、自ら登壇「(大統領にそそのかされた)今回の反乱は失敗した。われわれは暴徒や凶悪犯の脅しや圧力に決して屈することはない」と述べ、間接的に大統領の言動を批判した。

 世界のメディアでも、トランプ大統領に手厳しい論調がめだっている。

 英国有力紙「The Guardian」(6日付け)は早速、こう報じた:

 「この日起こったトランプ支持の暴徒による議会乱入、占拠事件は明らかに、過去1年、米国大統領の直接扇動によりエスカレートしてきた白人至上主義、反政府的暴力の頂点をなすものだ。昨年2月、クリストファー・レイFBI長官(当時)は連邦議会向けに、過激な言動の目立つ大統領にあおられた熱狂的支持者による攻撃対象にされかねないとして厳重警戒を発していた。その後、大統領がコロナウイルスをめぐるマスク着用やロックダウンに異議を唱え始めたことなどが重なり、彼らをさらに危険な方向に駆り立てた。同年4月、グレッチェン・ホイットマン・ミシガン州知事が外出禁止令を発令すると、大統領は過激化しつつある支持者に向けて『Liberate Michigan!(ミシガンを解放せよ)』と声高に呼びかけ、一時はこれに呼応した武装グループが州議会に押しかける騒ぎとなった。それはまるで、今まさに首都ワシントンで起きた大事件のミニ・リハーサルとも言えた……」

 ドイツの「Die Welt」紙は「アメリカ民主主義にとって恥辱の日」との見出しを掲げ「事件の責任は無数の虚言と欺瞞、扇動を繰り返してきたトランプ大統領にあることは明白だ」と断じた。

 オーストラリアの「Sydney Morning Herald」紙は、著名作家による寄稿文を掲載「トランプ大統領とジュリアーニ個人弁護士は、選挙結果の受け入れを拒否し、群集に力ずくで連邦政府の権限に歯向うよう扇動したことにより国家謀反罪に問われるべきだ。ただその一方、裁判にでもなれば、結果が出るまでには1年以上も待たされ、その間、アメリカの国論をさらに二分化しかねない。当面の課題は、任期切れまであと11日間を残すのみとなったトランプに、これ以上無責任な行動をとらせないよういかに制御できるかだが、それもあまり期待できないかもしれない」と厳しい見方を示した。

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