2024年4月25日(木)

Washington Files

2020年12月21日

 トランプ大統領自身の恩赦をめぐる話題が熱を帯びてきた。その中でも、「自己恩赦は認められるか」という憲法論議と、バイデン次期大統領による「国論統一」というより高い視点からの恩赦の是非論議が主軸になっている。

( REUTERS/AFLO)

 トランプ大統領退任後の刑事訴追本格化にともない、真っ先に浮上したのが、前代未聞の「自己恩赦self pardon」が合憲か違憲かという論議だ。

 合衆国憲法は大統領特権としての「恩赦」について、第2章第1条で「大統領は、弾劾の場合を除き、合衆国に対する違法行為に対しReprieves(刑の執行猶予)及び Pardons(恩赦)を与える権限を有する」と規定している(いずれも複数形になっている点に注目)。

 歴代大統領はこの規定に基づき、違法行為の時代的背景や信条的立場の共有などを理由に、在任中に何件かの恩赦を出すのが半ば慣例化してきた。しかし、大統領が在任中に自分に対して恩赦を出したケースは過去1度もない。まさに前代未聞だ。

 そのきっかけになったのが、ロバート・モラー特別検察官がロシアによる2016年米大統領選挙介入問題を本格追及中だった2018年6月、トランプ氏自らの事件関与疑惑が浮上してきたのを受け、個人弁護士のルドルフ・ジュリアーニ氏による「大統領は起訴も召喚もされず、自己恩赦の権限がある」との弁明だった。するとトランプ氏がただちに呼応、自らのツイッターで「多くの法律学者も語っている通り、私には自己恩赦の絶対的権利がある」と応じたため、法律専門学者を巻き込んだ憲法論議に火がついた。

 保守系の「Wall Street Journal」は今月2日、この問題について、1974年当時、ウォーターゲート事件でニクソン大統領(当時)が辞任に追い込まれる直前、司法省法務部が作成したメモで「何びとといえども自分自身の案件の判事になりえない」との古くからの法令を下に自己恩赦を否定していると指摘する一方、「大統領は対象が他人であれ、自分であれ恩赦の特権がある」(アンディ・マッカーシー元連邦検事)という容認説を両論併記で掲げた。さらに「答えは明快だ。誰もこの問題の明解な回答を持ち合わせていない」(アラン・ダーショウィッツ・ハーバード大学教授)といった中間説まで紹介している。

 しかし、右翼系雑誌「National Review」は同4日、さらに踏み込んで「自己恩赦」が合憲だとするジョン・ユー・カリフォルニア州立大学法学部教授の見解を紹介するかたちで以下のように論じた:

 「憲法の条文を素直に読む限り、大統領は自分自身を含め誰が対象であれ恩赦できることは明白だ。建国当時、憲法起草者たちは三つだけ例外を設けた。第一に、連邦法に抵触する犯罪行為に限定され、州法違反行為は対象外であること、第二に、連邦法の下の民事にかかわる違反行為には適用されないこと、第三に、弾劾された場合だ。憲法条文は大統領の恩赦特権についてそれ以外の制限を設けておらず、連邦最高裁も新たな制約をこれまで課したことはない。たしかに過去いかなる大統領も、自己恩赦をしたケースはないものの、リチャード・ニクソンおよびジョージ・H・W・ブッシュ両大統領は在任中その可能性を検討したことがあった。恩赦特権に関する条文を見る限り、憲法は対象が他人であれ自分であれ、これを禁じているとは思われない」

 この主張には穏健派のワシントン・ポスト紙が直ちに反応を示し、7日付で、司法省次官補(法律顧問室長)を務めたマイケル・ラティグ元連邦高裁判事による以下のような鋭い反論を掲載した:

 「トランプ大統領は『何人かの学者たちも自己恩赦を認めている』と述べたこと自体、正しい。だが、これらの学者たちは絶対的に間違っている。大統領は憲法の下で自分を恩赦する権限を有していない。もしそうした広範囲に及ぶ恩赦特権が認められたとすれば、憲法起草者たちがきちんと条文に盛り込んでいたはずだ。彼らはむしろ、そうした強大な権限を持つ君主制国家を拒絶し、民主共和国としての新たな国家樹立を意図していたのだ。

 とくに憲法条項では大統領に恩赦特権を『賦与grant』するという表現が使われているが、これはある人物から別人に対する『贈り物gift』『授与conferral』もしくは『移譲transfer』を意味しており、自分自身を対象としたものではない。まさにこれこそが当時の起草者たちの理解であり、実際に憲法全文を通じ『grant』という言葉が一度ならず使われているのもこのためである」

 このように「自己恩赦」をめぐっては、法律専門家の解釈が二つに割れているのは事実だが、それでも、憲法が意図した「恩赦」は自分に対してではなく、第三者に「grant」することを意図したものだとする指摘が、どちらかと言えば法曹界の多数意見となっている。


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