Washington Files

2020年11月30日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

 バイデン次期大統領には来年1月20日就任後、コロナ対策など国内緊急課題に加え、国家安全保障面でも一刻の猶予も許されない難題が待ち受けている。北朝鮮、ロシアそしてイランの3つの核問題だ。

(tuk69tuk/gettyimages)

 中でも、最も切迫した脅威となりつつあるのが、アメリカそして日韓などアジア諸国を翻弄させてきた金正恩体制下の北朝鮮核開発だ。

 北朝鮮の核開発および核戦力の実態は厚いベールに包まれており、正確な情報はないもの、権威ある米軍縮協会Arms Control Associationは今年8月20日時点の現況について 、①30~40個の核弾頭を保有②年間6~7個の核弾頭を生産できる濃縮ウラン生産能力を保有③20~40キロのプルトニウムおよび250~500キロの高度濃縮ウランを貯蔵④プルトニウム抽出用の5メガワット級重水反応炉を稼働―などを列挙している。

 さらに北朝鮮は、今年10月10日深夜、平壌市内で行われた朝鮮労働党創建75周年祝賀軍事パレードで、新型ICBM(大陸間弾道ミサイル)、および「北極星4」と記されたSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)を登場させ、世界を驚かせた。

 11月1日付、英ファイナンシャル・タイムズの報道によると、北朝鮮がこのように比較的短期間で核開発を驚くべきスピードで進展させてきた背景として、1990年代から中国、パキスタンおよびロシア科学者からの技術・ノウハウ提供のほか、2000年代に入りとくにイランとの間の相互協力が挙げられている。北朝鮮核問題に詳しいカーネギー国際平和財団のアンキット・パンダ氏の報告によると、資金面を含めた両国の緊密な関係は米財務省も確認しており、「核開発プロセスを通じ、ある分野ではイランの恩恵を、またある分野ではイランが北朝鮮から恩恵を受けるという“双方向”の関係にある」という。

 北朝鮮は、核開発面のみならず、ミサイル面でも着実な進展を見せており、2017年には、太平洋グアム島を射程に入れる「火星12」(射程4500キロ)の発射実験を成功させたのに続き、翌年には、推定射程1万キロの「火星14」、さらにその後、米国全土を射程に収めた射程1万3000キロ程度の「火星15」を開発した模様だ。もしこの新型ミサイルの能力が実証されれば、「北朝鮮が初の本格的ICBMを手中に収めることを意味する」(2020年10月12日の英BBC放送)

 しかし、ICBM以上に恐れられるのが、SLBMの存在だ。

 北朝鮮のSLBM能力については、昨年7月、金正恩労働党委員長が新型潜水艦を視察したことが明らかとなり、同年8月には米戦略国際問題研究所(CSIS)が、北朝鮮が弾道ミサイル搭載の新型潜水艦の建造にすでに着手し、実戦配備を目指しているとの分析結果を公表していた。

 ロンドンにある「国際戦略問題研究所」(IISS)の軍事問題アナリスト、ジョセフ・デンプシー研究員によると、この潜水艦は「ロメオ級」改良型ディーゼル艦とみられ、船体最上部の「セイル」と呼ばれる部分が船内からミサイル3発を発射できるだけのハッチ用に拡大されている点に特徴があるという。

 もしかりに、北朝鮮がこのような核ミサイル搭載潜水艦を日本海の海中に遊弋させることになった場合、朝鮮半島有事に備える米軍戦略の根本的再考を余儀なくされかねず、それだけ深刻な脅威となる。同時に、金日成主席以来の念願であった「核保有国としての国際的認知」を周辺諸国が迫られることになる。

 前述のパンダ研究員は「とくにアメリカ、韓国、日本は戦時プラニングの面で、このような海中核脅威にどう対処していくか、今後、対潜作戦(ASW)上の非常事態対処を真剣に受け止める必要がある」と指摘している。

 トランプ大統領は2018年6月、金正恩氏との首脳会談終了後、「北朝鮮の核の脅威はもはやなくなった」と豪語してみせたが、その北朝鮮はその後も着々と核およびミサイル能力を着々と向上させ、今日に至っている。

 この点について、バイデン次期大統領は選挙期間を通じ「北が核戦力の縮小と核廃棄のコミットをしない限り、首脳会談に応じない」と繰り返し述べてきた。

 しかし、大統領就任後、直面する北朝鮮の核の脅威にどう向き合っていくのか、極めて困難な判断を迫られることは間違いない。

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