Washington Files

2020年11月12日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

 敗退が確定したドナルド・トランプ氏が来年1月20日のバイデン大統領就任式以降、連邦および州検察による十数件に及ぶ容疑で告発される可能性が高まってきた。これまでの大統領特権も適用外となり、1市民となってからの前途に暗雲がたちこめている。

(REUTERS/AFLO)

 有力誌「New York Magazine」は複数の検察出身専門家の話として「トランプに対する刑事事件がらみの容疑は連邦検察当局ですでに数多く準備されており、バイデン政権下の新司法長官がゴーサインさえ出せば、検察はすぐに行動を起こし、早ければ来年第1四半期内にも彼を起訴に持ち込む構えだ」と報じた。さらに「裁判が長引いたとしても、2023年には有罪判決を受ける」との多くの司法専門家の見方も伝えた。

 米ABCテレビも10日、ウォーターゲート事件でニクソン大統領(当時)を起訴に持ち込んだ実績のあるリチャード・ベンベニステ元連邦検察官のコメントとして「たんなる1市民となるドナルド・トランプが数多くの容疑で起訴、刑事告発されることは間違いない」と報じた。

 これまで米国各紙誌が報じてきたトランプ大統領に対する刑事告発案件には以下のようなものがある:

①ニューヨーク州マンハッタン地区検察局は昨年、性的事件で告発した女性に対する「もみ消し料支払い」捜査に関連し、トランプ氏の過去8年分の納税書類の強制的押収に乗り出した。これに対し、大統領の意を受けた司法省が「現職大統領は刑事訴追の対象外」として最高裁に「免責」を認めるよう上訴、最高裁はいったんは「免責適用範囲を拡大解釈している」として州地裁に差し戻した。同地裁はただちに検察側の強制押収措置を認める裁定を下したため、弁護団は今年9月、再び上告。

②同州レティシア・ジェイムズ検事は今年8月、トランプ氏および同氏が所有する「トランプ・オーガニゼーション」が莫大な融資を受ける際の担保となる不動産物件の相場価格を故意につり上げた疑いがあるとして捜査に乗り出した。この中には、ワシントン・ポスト紙のユージン・マイヤー元オーナーが所有していたウェストチェスター郡セブンスプリングズの広大な別荘地・邸宅など4件が含まれている。この捜査に関連し、すでに「トランプ・オーガニゼーション」の経営幹部の一人でトランプ氏次男エリック・トランプ氏がすでに法廷での証言を求められた。

③ワシントンDCおよびメリーランド州検察当局は、連邦政府のメンバーが外国から金品を受け取ることなどを禁じた憲法条項に違反し、大統領が在任中に、複数の外国政府から贈答金品を受け取ったほか、自ら所有するワシントンDCのホテルおよび郊外施設を利用させ利益を得た疑いで捜査を開始。これに対し、司法省は「在任中の大統領特権」などを盾に強制捜査を阻止しているほか、最高裁にも事件介入を上訴中。

④女性二人が2007年当時、カリフォルニア州ビバリーヒルズのホテルでトランプ氏に「強姦された」として告訴。これに対し、トランプ氏は大統領就任後、最近になっていずれのケースも否定すると同時に二人を激しい言葉でののしったたため、今度は二人が名誉棄損で連邦地裁に提訴。司法省は「在任中の大統領特権」を理由にこの提訴を黙殺。

⑤ニューヨーク連邦地検が、今回大統領選での不利な情報拡散防止を目的として大統領が性的関係を持った別の二人の女性に「口止め料」を支払ったとして捜査に着手。この件では、昨年9月、大統領の顧問弁護士だったマイケル・コーエン被告がすでに事実関係を認める証言を行っており、検察側はこれが「選挙資金規正法」違反に相当する行為だとして、裏付け捜査に乗り出している。

 これらの案件中、②以外については、司法省がいずれも大統領の立場擁護の観点から捜査介入の動きを見せてきた。しかし、来年1月20日にスタートする民主党政権で新たに就任する司法長官が同じ姿勢を打ち出す可能性は皆無と見られており、それだけトランプ氏は苦しい状況に追い込まれる。

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