2022年7月5日(火)

Washington Files

2020年11月12日

»著者プロフィール
著者
閉じる

斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。著書に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

「自己恩赦self pardon」の可能性

 このほか、トランプ氏は連邦政府および連邦議会調査関連で刑事告発対象とされかねない重大案件をいくつか抱えている。その中には①ロシア疑惑をめぐる議会調査過程でトランプ・ホワイトハウスが妨害工作をした「司法妨害」(刑事訴訟法第18条第73項)②調査官に虚偽の証言をした「偽証」(同第1001項)③ロシア情報機関による2016年大統領選介入に加担した「共謀」(同第371項)―がある。この3件案については、起訴され有罪判決を受けた場合、それぞれ懲役5年の対象となるという。

 もちろんトランプ氏は、上記のような案件について、退任後、捜査が一気に加速することも十分承知しており、専門弁護団を総動員し、起訴に持ち込まれた場合のいくつかの方策を検討中と報じられている。

 そのひとつは、来年1月20日ホワイトハウスを退出する直前に自分自身に対し「大統領恩赦」を宣言することだという。この「自己恩赦self pardon」については、過去実際に適用された前例はなく、その合憲性については法律専門家の間でも見解が分かれている。しかし、トランプ氏は今年前半、ロシア疑惑で追い込まれた際に「大統領は他人だけでなく自分も恩赦することができる」と発言しており、その可能性は否定できない。

 もうひとつの刑事告発回避策は、「大統領特権」を乱発し、検察側の証拠品押収を阻止し続けることだ。トランプ弁護団の一人、ウイリアム・コンソボイ氏はこれまでの法廷闘争の中で「かりにトランプ氏が路上で誰かを射殺したとしても、大統領であるかぎり、罪に問われない」と断言、物議をかもしたこともあった。さらに、退任後も、在任中の容疑について「大統領特権」の対象となるとの主張を繰り返す可能性も否定できない。その場合、

 最終的には最高裁判断に持ち込まれることもありうる。

 しかし、かりにトランプ氏が何らかの奇策で連邦検察当局の刑事告発を逃れたとしても、州法の下での刑事告発は全く別問題だ。「自己恩赦」も「大統領特権」もすべて適用外とされており、トランプ氏にとっては最も頭の痛い問題となりうる。

 この点でにわかに注目を集めているのが、ニューヨーク州マンハッタン地区のサイラス・バンス・ジュニア氏(元国務長官子息)率いる検察チームの動きだ。

 バンス氏は昨年、連邦検察当局が元ポルノ女優にトランプ氏が事件もみ消し料を支払った事件の立件を断念した後、これに代わりさらに捜査網を拡大、強化、今では、“トランプ王国”の牙城とされる「トランプ・オーガニゼーション」本体について銀行取引法、税法、企業保険法詐欺容疑で精力的な証拠固めに乗り出している。

 「New York Magazine 」によると、同検察官が絞り込んでいるトランプ氏に対する具体的容疑は①トランプ・ファミリーがポルノ女優に支払った口止め料を帳簿上「経費」扱いとし虚偽の営業報告を行った(州刑法第175条)②虚偽の営業内容に基づく虚偽の納税申告を行った(州税法第1806条)―の2点とされる。

 またこの点に関連し、これまで「トランプ・オーガニゼーション」全体の“金庫番”としてトランプ大統領が絶大の信頼を寄せてきたアレン・ワイゼルバーグ財務担当がつい最近、州検察当局による捜査への協力の意向を示しているといわれ、捜査は大詰めを迎えつつあるという。

 バンス氏はさらに、捜査対象事案はいずれも時効となる「6年」以内の容疑であることや、連邦検察とは無関係に捜査が進められているため、司法省による介入の余地はないとして自信を強めており、一説には、事件解明の最大のカギとなるトランプ氏の過去の納税記録もすでに入手済みとの見方も出ている。

 もし、バンス氏が実際に納税記録一式をすでに何らかの手段で確保し、実態解明に乗り出しているとすれば、トランプ氏は一段と罪の重い脱税容疑で告発される場合もありうる。

 いずれにしても同誌は「トランプ氏は過去、実業家としての活動を通じ、4000件近くの訴訟に直面しつつもなんとか切り抜けてきた。しかし今回、逃げようのない数多くの違法行為が一挙に白日の下にさらされ、いくつかの州をまたいでそれを裏付ける証拠がつぎつぎに固められつつある」と述べている。

 一方、ニューヨーク・タイムズ紙調査報道によると、内国歳入庁(IRS=日本の国税庁)は、トランプ氏が2010年当時、税控除申告により、7290万ドルの還付を受けた事案について徹底的な精査に乗り出している。もし、その結果、控除申告が却下された場合、追徴分含め1億ドル以上の追加納税を迫られる。さらに、これ以外にもトランプ氏は2022年までに、滞納してきた納税額が1億ドルに達すると伝えられており、退任後の自身の家計簿は決して楽観を許さない状況だ。

 トランプ氏は大統領就任直後、「自己資産100億ドル」を豪語してきた。しかし、実際はその10分の1以下とみられている。

 その挙句に、待ち構える巨額の納税義務を果たせなくなった場合、所有するゴルフ場、ホテルなどの資産売却を迫られることにもなりかねない。

 2020年大統領選で敗北した個人的な「負の連鎖」がすでに始まろうとしている。

  
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。

関連記事

新着記事

»もっと見る