Washington Files

2020年11月23日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

 米大統領選での敗北をいぜん認めようとしないトランプ氏―。公務にもほとんど手を付けず、連日ホワイトハウスに閉じこもったままの大統領の最新の精神状況について、米国メディアが「バンカー・メンタリティ」との表現で報じ始めた。

 「外界が目まぐるしく動く中、トランプはホワイトハウスのバンカーに閉じこもったまま」(CNNテレビ、11月17日)

 「解説=トランプの『バンカー・メンタリティ』について」(ロサンゼルス・タイムズ紙、11月15日)

 「トランプが毎年恒例のフロリダ別荘での感謝祭休暇をキャンセル、側近は『バンカー・メンタリティ』とコメント」(ビジネス・インサイダー誌11月18日)

 こんな見出しのニュースが相次いでいる。いずれも、過去10日余り、公衆の面前どころかTV画面にもほとんど姿を見せない大統領の近況に関したものだ。

(BorisRabtsevich/gettyimages)

 「bunker mentality」とは、正確には「強固な塹壕にこもり、自分に敵意を抱く相手の攻撃にあたかもさらされているかのような、極度の猜疑心と防御本能にとりつかれた態度または精神状態」と定義されている。

 蛇足ながら、バンカーに打ち込んだボールを出すのに四苦八苦するゴルファーの苦悩ぶりとは何の関係もない。

 しかし、屈強な何人ものシークレトサービスと海兵隊員に24時間自分の身の安全を確保してもらい、週末にワシントン近郊の自分のゴルフ場で気晴らしするほかは、連日ホワイトハウスに閉じこもったきりの現下の大統領の姿にはぴったりの表現だろう。

 そこでより具体的に、ホワイトハウスが公表している大統領選投票日翌日の11月4日以来の公式スケジュールをチェックしてみることにする。以下の通りだ:

11月4日(水) 公式スケジュールなし
11月5日(木) 公式スケジュールなし
11月6日(金) 公式スケジュールなし
11月7日(土) 10:40AM 近郊のバージニア州トランプ・ナショナル・ゴルフクラブ
11月8日(日)  9:55AM 同ゴルフクラブ
11月9日(月) 公式スケジュールなし
11月10日(火) 公式スケジュールなし
11月11日(水)  10:55AM  近郊アーリントン墓地で献花
           11:30AM  ホワイトハウス帰着
11月12日(木)   12:30PM ペンス副大統領と昼食(ホワイトハウス)
         16:00PM ポンペオ国務、ムニューシン財務長官と協議(同)
11月13日(金)   12:00PM コロナワクチンに関する説明受ける(同)
11月14日(土)   10:45AM トランプ・ナショナル・ゴルフクラブ
11月15日(日) 10:10AM 同ゴルフクラブ
11月16日(月) 12:30PM ペンス副大統領と昼食(ホワイトハウス)
11月17日(火) 公式スケジュールなし
11月18日(水) 公式スケジュールなし
11月19日(木) 公式スケジュールなし
11月20日(金)   6:50AM APEC首脳会議にオンライン参加(ホワイトハウス)
         16:00PM ミシガン州共和党議会首脳を呼び寄せ、同州での大統領選選
             挙結果「無効扱い」の方策協議(ホワイトハウス)
11月21日(土)  8:00AM  G20オンライン参加(ホワイトハウス)
         10:30AM トランプ・ナショナル・ゴルフクラブ
11月22日(日)       トランプ・ナショナル・ゴルフクラブ 

 ざっとこんな具合で、欠かさずゴルフに出かける週末以外はほとんどホワイトハウスにとどまり、悶々とした日々を過ごしているようだ。連日早朝から深夜まで各州に遊説に出かけ、支持者向けに投票を必死に呼びかけてきた大統領選期間中とは別世界の感がある。

 ではそんなトランプ氏は、毎日をどう過ごし、今何を考えているのだろうか―CNNテレビは17日、同局のホワイトハウス詰めレポーターたちが大統領側近たちから取材した情報を下に、こんな近況を伝えている:

 「大統領選以後、『公式スケジュールなし』の日々が続くトランプ氏だが、この間、ホワイトハウス詰め記者団の質問には一切答えず、大統領執務室にも本来好みの民放TVカメラを入れることもない。毎年一家で恒例となっていた自分のフロリダのゴルフ・リゾートでの感謝祭夕食会も前日まで予定していたにもかかわらずドタキャンにした。ホワイトハウス高官の一人によれば、『まさにバンカー・メンタリティー状態』だ。

 ほとんど何もすることがなく、午前中は2階の住居でTVを見続け、午後遅めに1階のオーバルオフィス(大統領執務室)で夕刻まで時間をつぶす。2階のプライベート居住室に上がれば、北向きの窓から、1月20日に予定される(ペンシルバニア通りの)バイデン次期大統領就任式パレード用観覧席の仮設工事が否が応でも視界に入ってくる。4年前、自分が大統領として着席したのと同じ観覧席だ」

 「彼が大統領就任以来、毎日こんなに軽いスケジュールで、これほど長い間、TVカメラを遠ざけ続けているのは過去めったになかった。大統領選挙後、3度だけ公の場に姿を見せたが、記者団の前で選挙結果に関する嘘八百を並び立てるだけで、質問には一切答えなかった。アーリントン墓地では雨に打たれ献花し、ローズガーデンでのコロナワクチンに関する発表に臨んだ際も、記者団とのやりとりを拒否した。

 この間、ペンス副大統領、国務、財務長官と打ち合わせしたほかは、公式スケジュールは空きっぱなしだ。大統領として欠かすことのできない国家安全保障に関する機密ブリーフィングについても、バイデン次期大統領によるアクセスを拒否し続ける一方、自分は1か月以上も受けていない。同盟諸国首脳たちとは、彼らがバイデン氏に祝意を電話で伝える中で、去る10月30日のマクロン仏大統領との会話を最後にほとんど電話で話をするのをやめた」

 「それでも裏では、国防長官解任やアフガンおよびイラクからの米軍削減命令など人事、政策面でいくつかのアクションを見せてきた。先週には、側近との協議の中で、イラン攻撃オプションについて質問したと報じられたほか、国内政策面でも、規制緩和、移民制限などについて任期終了までの自らの立場を固めておこうと躍起になっている。

 彼は在任1期の間に途中とん挫した課題について、何としても達成したいと思っており、取り巻きたちは『今後2カ月が静かに過ぎ去ることはない』と受け止めている。それでも実際にはほとんどやることがなく、今回の敗北で頭がいっぱいになり、暗澹たるムードになっている大統領に対し、もっとスケジュールをふやしてはどうかとアドバイスをしているものの、彼はこれまでのところ、ほとんど関心を示していない。この間、ペンス副大統領は、エジプトでの米軍ヘリ墜落事故で死亡した米兵たちの遺体対面のため、デラウェア州ドーバー空軍基地に向かったが、大統領は執務室で大統領選ネバダ州での開票やり直しの動きをケーブルTVで追い続け、『これが全体の選挙そのものにも大きなインパクトをもたらすだろう』とのツイートを発信した」

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