2023年1月31日(火)

Washington Files

2020年11月30日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。著書に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

イラン政権側の態度は今のところ一致していない

 第三は、イラン核問題だ。

 トランプ政権は2018年5月、オバマ前政権が英仏中露4核保有国とともにイランとの間で締結した条件付きで締結した「イラン核合意」について、一方的離脱を発表した。その理由として①イランの完全核廃棄を意図した条約ではない②弾道ミサイルを規制対象としていない③イラン側に1000億ドルもの原油売却収入の道を開いた―などを挙げた。

 たしかにこれらの指摘は、ある程度的を射たものだが、一方で本格的「核保有国」一歩手前まできたイランをこのまま放置した場合、対立国サウジアラビアがただちに核開発に乗り出し、ひいては中東全域の軍事バランスを大きく動揺させる危険が切迫していた。このため、こうした事態を憂慮した米議会共和党指導部もオバマ政権当時、この暫定合意を支持してきた経緯がある。

 しかしその後、イラン側は米政権が合意を反故にしたことを口実として、核開発再開の動きを見せており、国際原子力機関(IAEA)のラファエル・グロッシュ事務局長は今月14日の記者会見で、「イランは中部ナタンツの地下核施設で、改良型遠心分離器の運転に乗り出した」と発表した。この点に関連し、ロイター通信も、イランが核合意の規制対象となっている改良型分離機によるウラン濃縮に着手したと報じている。

 こうした切迫した事態を受け、1月20日就任するバイデン新政権としては、待ったなしの対応を迫られている。

 バイデン氏はこれまで大統領選期間中、雑誌寄稿などを通じ、核合意が不十分なことを認めた上で「規制対象をさらに拡大できるよう、同盟諸国と協議していく」「イランが合意内容を厳密に履行することを前提として我々も合意に復帰する」などと述べてきた。

 ただ問題は、イラン側がこうした前提条件で復帰に応じるかどうかだ。

 この点について、イラン政権側の態度は今のところ一致していない。現地からの報道によると、核合意をこれまで後押してきたハッサン・ロハニ大統領が合意復帰に向けた再交渉に前向き発言をしているのに対し、アリ・ハメネイ最高指導者は慎重姿勢だという。

 このため、米上院議員時代を通じ外交委員会有力メンバーそして20年以上の同外交委員長としてのキャリアもあるバイデン氏の外交手腕が直接問われる重大な局面を迎えていることは間違いない。

 米上院外交委の中には、この危機回避のため、来年前半にも、米イラン首脳会談開催期待論も出ているという。

 いずれにしても、過去4年近くの間に、世界の重要案件に真剣に向き合うことを避け、かえって混乱に導いてきたトランプ政権の「負の遺産」を精算するには、想像以上の努力と覚悟が求められていることは間違いない。

  
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