Washington Files

2020年12月7日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

 トランプ人気は大統領退任後も衰えず、国論を2分し続けるとの見方が、わが国含め内外でまことしやかに広まっている。果たしてそうか。むしろ、1月20日のバイデン新大統領誕生後、“トランプ風船”は目に見えてしぼんでいく公算が大きい。なぜか―理由を4つ挙げる。

(Tim Brown/gettyimages)

1.ツイッター特権喪失

 トランプ氏はツイッターを最大限活用し大統領選に勝利した史上初の“ツイッター大統領”だった。21世紀に本格化した「SNS時代の申し子」であり、逆に、ツイッターが存在しなかったならば、彼は大統領になりえなかっただろう。それは、自身のツイート回数の急膨張ぶりにはっきり表れている。

 例えば、トランプ氏が実業家当時の2015年6月1か月間の発信回数を見ると、たったの66回だった。しかしその後、2016年大統領選出馬、就任をへて急上昇し、今年10月には1か月間で1万9600回という記録的数字に達した(ワシントンポスト紙調査)。就任前にくらべ3千倍の増加だ。

 根拠のない指摘、辛辣な政敵批判、極論に彩られたその内容についても、当初、これに賛同するフォロワー人数は微々たるものだった。ところが、大統領選出馬表明後、徐々に増え始め、就任時を通じ、爆発的に増加した。 

 それ以前、2015年1月時点のフォロワーはわずか79人、大統領選出馬当初の2016年1月時点でも2021人にとどまっていた(政治メディア「Politico」調査)

 しかし、就任4年後の今日では、その数6000万人という空前規模に膨れ上がった。6年近くの間にざっと75万倍という驚異的数字だ。つまり、世界最強国の最高指導者の発信であるがゆえに支持者が膨れ上がり、トランプ人気を作り上げたと言える。

 同時に、発信内容について「世界指導者world leader」だけは検閲の対象外となる「SNS特権」を大統領としてフル活用できた点も見逃せない。

 とくにツイッター社の場合、トランプ大統領の在任期間通じ、事実無根あるいは不正確な内容を盛り込んだツイート回数が2万回以上にも達していたにもかかわらず、「言論の自由」最優先の立場から、ほとんど放任してきた。ただ、同社は今年春以来、深刻化するコロナウイルス危機に関する虚報や、大統領選での郵便投票を「民主党の策略」と批判し続けるトランプ氏のツイートに「警告warning」ラベルを付け読者の注意喚起を促してきた。

 しかし、来年1月20日退任と同時にこの特権も適用外となり、これまでのような世情を扇動する反社会的内容は検閲または掲載禁止対象となる。

 ツイッター社より閲覧回数がはるかに多い「フェイスブック」社も、大統領選投票結果を「窃取行為」だとして反バイデン運動を呼びかけるトランプ支持団体の投稿掲載を規制してきた。大統領退任後のトランプ氏個人の投稿についても、これまで以上に厳しい制限がかかる可能性が高い。 

 6000万人近くのフォロワーについても、その大半は現職大統領であるがゆえに発信内容に注目が集まってきたが、ただの1市民となった後は激減は避けられない。さらにSNS側の規制強化で「トランピズム」も牙を抜かれ、人気凋落の始まりとなる。

2.フォックス・ニュースとの関係冷却化

 アメリカの大手メディアの中でトランプ氏が最も緊密な関係を保ってきたのが、保守系ケーブル・テレビ局「Fox News」だった。とくに2016年大統領選に立候補して以来、同テレビ局に連日のように出演、既成政治打破を信条とした特異な自説を視聴者に繰り返し訴えかけることで支持者を増やし、当選の重要な足がかりをつかんだ。大統領就任後も、同チャンネルを代表する著名キャスターの人気番組にひんぱんに登場、ホワイトハウス記者団との定例ブリーフィングそっちのけで内外重要政策についての見解を表明してきたため“トランプ・チャンネル”とさえ言われてきた。「Fox News」の存在ゆえにトランプ氏は当選を果たし、その後支持者をさらに増やして今日に至ったことは明らかだ。

 しかし、バイデン民主党候補の当選が確実となった今回大統領選を境に、両者間のハネムーン関係にも亀裂が入り、“離縁”の噂まで浮上し始めた。

 直接のきっかけとなったのは、大統領選開票が始まって2日目の去る11月5日夜、「Fox News」が他局にさきがけ、ジョージア州における「バイデン勝利」をいち早く報道したことだった。獲得票差が拮抗し、他の主要テレビ局も勝敗の判断を決めかねていた段階での先行報道だっただけに、ホワイトハウスで開票結果を見守っていた大統領は激怒、居合わせた側近に対し、ただちに同局のオーナーであるルーパート・マードック氏を電話で呼び出し、報道取り消しを求めるよう命じた。しかし、同局はこれに応じず、結果的に1週間後には、ジョージア州務長官が開票作業終了後、公式にバイデン氏の勝利を発表した。

 CNNなどによると、トランプ氏はFox Newsによるその後の他州開票結果報道にも不満を爆発させ、過去4年近くにわたり親交のあったマードック氏との「関係清算」さえ口に出し始めたという。そして実際に、Fox Newsに代わり、零細規模ながら極右論調を掲げ熱狂的トランプ支持者の多い「Newsmax」「One America News」2社との新たな関係構築を模索し始めた。

 一方のマードック氏はもともと、同じニューヨークを拠点に活動を続けてきたものの、実業家時代のトランプ氏との交流はほとんどなく、2016年大統領選当時も、投票日直前までヒラリー・クリントン氏の当選を予想するなど、疎遠な関係だった。大統領就任後、急接近し、トランプ大統領も高視聴率を維持するFox News を最大限利用してきた。

 ケーブル・テレビ業界誌などによると、最近になってトランプ氏は、同陣営が依然として「選挙の大規模不正」を訴える法廷闘争を続ける中で、Fox Newsが最終的にバイデン氏を「次期大統領」と報じたことで一段と怒りをあらわにし「Fox News をつぶしてやる」と側近に語ったほか、退任後には、独自にストリーミング方式のニュース・チャンネル立ち上げを検討中ともいわれる。先月12日には「Fox Newsの昼時の視聴率はがた落ちし、週末のニュース視聴率は最悪だ。やつらは(同チャンネルを急成長させた)ゴールデングース(金の卵を産むガチョウ)の存在を忘れている」などと自らのツイートで酷評してみせた。

 しかし、トランプ氏が実際に平均視聴者180万人以上というFox Newsと絶縁した場合、大統領退任後、これに代わり従来のような自分の毒舌を意のままに受け入れる大手メディアはすぐには見当たらない。遠からず「過去の人」となり多くの家庭の茶の間から忘却のかなたに追いやられることにもなりかねない。

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