2024年2月21日(水)

Washington Files

2020年12月7日

3.暴かれる諸悪と信用失墜 

 トランプ氏に対してはニューヨーク実業家時代から、ビジネス取引めぐりさまざまな疑惑がもたれ、民事訴訟、刑事訴追の対象となってきた。大統領就任後も、ロシア疑惑をはじめとする背任、共謀、職権乱用、司法妨害などの嫌疑がかけられ、米議会関連委員会も真相究明に乗り出すなど、世間を騒がせ続けてきた。しかし、大統領が直接、司法長官および上院を制する共和党指導部に圧力をかけ、追求を逃れてきた。

 ところが、1月20日バイデン民主党政権発足と同時に、状況は一変し、州、連邦レベルの刑事捜査のみならず、米議会での厳しい調査にさらされることになる。

 この中でとくに注目されるのが、脱税・不正税申告をめぐるニューヨーク州検察による捜査の動きだ。

 ニューヨーク州検察だが、東京地検にも比肩する敏腕検事で固められたマンハッタン地区検察(サイラス・バンス・ジュニア首席検事)は当初、2016年大統領選中、トランプ氏がセックス・スキャンダルもみ消し目的でポルノ女優に数十万ドルを支払った行為が公職選挙法違反に当たるとして捜査を進めてきた。しかし、昨年以来、トランプ・ファミリー・ビジネスの“本山”であるニューヨーク五番街の「トランプ・オーガニゼーション」の存在そのものについても捜査網を拡大、脱税、詐欺、背任などの容疑で関係人物をつぎつぎに大陪審に喚問してきた。

 その過程ですでに、トランプ大統領の個人弁護士だったマイケル・コーエン氏が有罪を認めた上で司法取引に応じ、捜査協力し始めているほか、大統領の次男エリック氏も法廷での証言を強いられている。今回大統領選結果の「巨大な不正」を理由にバイデン当選取り消しを求めるトランプ陣営訴訟団のトップに立つジュリアーニ弁護士(元ニューヨーク市長)も捜査対象とされている。

 さらにトランプ氏にとって気がかりなのは、「トランプ・オーガニゼーション」の金庫番を務め、ファミリー全体の金の動きをすべて把握しているアレン・ワイゼルバーグ財務担当が最近になって、バンス首席検事による捜査への協力意思を表明したと伝えられたことだ。コーエン氏同様に、もし、ワイゼルバーグ氏が司法取引に応じることになれば、多くの疑惑に包まれてきたトランプ・ファミリーの不動産取引の実態が一挙に、白日の下にさらされよう。

 バンス首席検事はこのほか、過去10年近くにわたるトランプ氏個人の納税実態の解明にも乗り出しており、州税務局およびIRS(内国歳入庁=国税庁)に対し、納税申告書類の提出を要求してきた。大統領はこれに対し、「大統領特権」をタテに拒み続けてきたが、1月20日退任以降、これまで秘密とされてきたトランプ氏の納税関係書類が検察側の手に渡ることは必至と見られている。

 こうした矢先、ニューヨーク・タイムズ氏は今月1日、バイデン政権による“報復措置”の一環としてファミリーのうちの長男トランプ・ジュニア、次男エリック、娘イバンカ、娘婿クシュナー各氏が来年1月20日以降、捜査対象とされることを大統領が心配し、刑事訴追される前の「先行恩赦pre-emptive pardon」を与えるかどうかについて弁護士団と打ち合わせしたと報じた。CNNテレビも同日、ジュリアーニ弁護士も今後、捜査の手が自分に及ぶことを恐れ、トランプ大統領周辺に「恩赦」の打診をしたと伝えている。

 大統領自身についても、退任後に様々な疑惑で刑事訴追されることを警戒し、「自己恩赦self pardon」や、退任前に辞任し後任の「暫定大統領」となるペンス副大統領が1月20日バイデン新大統領就任前にトランプ氏を「恩赦」するといったシナリオまでワシントン政界で話題になっている。

 しかし、これらの恩赦の対象はいずれも連邦法に抵触する犯罪行為に限定されており、州レベル捜査は適用外だ。このため、ニューヨーク州マンハッタン地区検察による捜査の行方は、トランプ・ファミリーにとって引き続き不安材料としてつきまとうことになる。

 このほか、米議会とくに民主党が多数を制する下院各委員会でも、トランプ・ビジネス関連の疑惑追及に拍車がかかることが予想される。

 これら捜査や議会公聴会などを通じ、脱税や不正がより具体的に暴かれ、関連報道が世間を賑わすことになれば、トランプ氏の信用は退任後、つるべ落としの低下も十分考えられよう。

4.共和党票とトランプ票の落差

 トランプ大統領は今回の選挙で7400万票近くを獲得した(バイデン氏は8000万票超)。この数字を根拠に、日本含め内外の多くのコメンテーターの間で、トランプ氏退任後も強大な影響力を行使、国論を分断し続けるとの見方が広がっている。

 しかし、今回のトランプ票のすべてが大統領退任後もそのままトランプ支持票になると早合点してはならない。共和党員の中には、2020年大統領選で民主党に政権を渡すのを嫌うがゆえに、やむなく今回はトランプ氏に投票した有権者が少なくない。夏の党大会で最終的に「共和党候補」に指名された同氏に投票したものの、果たしてこのうちの何割が熱烈な「トランプ支持者」だったかは未知数だ。(この点、2016年1月、トランプ氏が大統領選に立候補する前の同氏のツイッター・フォロワーが千人にも満たなかったことは参考になる)

 今年10月16日公表されたギャラップ社の党派別世論調査結果によると、国民の31%が「民主党」、同じ31%が「共和党」、そして36%が「無党派」という色分けだった。

 このうち今回は「共和党支持」を自認する31%近くの有権者7400万人近くがトランプ氏に投票した。しかし、かりに最終的な共和党指名候補がトランプ氏以外であったとしても、ほぼ似通った支持票を得ていたとみられる。人気度では今ひとつだったバイデン氏が今回、民主党候補であったがゆえに8000万を超す民主党票を得たのも、同様の理屈だ。

 2016年大統領選共和党予備選では、トランプ氏のほか、テッド・クルス、ジョン・ケイシック、マルコ・ルビオ4候補で最後まで党指名獲得レースが展開され、最終的にはトランプ候補が「共和党支持者」のうちの44.9%を獲得して指名を獲得した。2位以下はクルス候補25.1%、ケイシック候補13.8%、ルビオ候補7.3%の順だった。つまりトランプ氏は、前回大統領選の最終的な党指名獲得時点で、全有権者の3割にも満たない「共和党支持者」のうちの45%程度の支持しか得ていなかったことになる。

 この構図は基本的に今回も大きな変化はなかったとみられる。7400万票をトランプ氏が獲得したからといって、この数字をそのまま個人的なトランプ支持票とするのは明らかに間違っている。今回も前回同様、その大半はトランプ氏個人への票ではなく、「共和党支持票」だったことを肝に銘ずべきだ。

 さらに今年の大統領選の特徴のひとつとして、民主党が最終的に、バイデン候補の下で一枚岩の団結を見せたのに対し、共和党側では、穏健派、良識派の多くの有権者がトランプ氏の極右的な偏狂思想に愛想をつかし、民主党側に寝返ったことが挙げられている。

 退任後は、トランプ氏に今回投票した共和党員の中で、より一段と“トランプ離れ”が加速されよう。

 トランプ氏は2024年大統領選でのカムバックに意欲を見せていると伝えられる。だが、勝利は「ラクダが針の穴を通るより難しい」ことになる。

  
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