2023年1月31日(火)

Washington Files

2020年12月21日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。著書に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

バイデンはトランプを恩赦するのか?

 これとは別にもう一つ、トランプ氏に関わる恩赦論議で、つい最近関心が高まってきたのが、バイデン次期民主党大統領は彼に恩赦を与えるべきかどうかの是非論だ。「自己恩赦」の憲法論議より、むしろこちらの議論の方が熱気を帯びてきている。

 まず、バイデン氏はトランプ氏に恩赦を与えるべきだとの論陣を張ったのが、かつてニクソン弾劾審議で米下院司法委員会顧問を務めた民主党の大物弁護士マイケル・コンウェー氏だった。同氏は去る11月18日、NBCテレビ番組にゲスト・コメンテーターとして出演、その中で「トランプ氏は大統領選におけるバイデン氏当選の正当性を承認せず、平和的政権移行を邪魔するなど民主的プロセスを阻害してきたことは事実だ」と前置きした上で、

 「トランプ氏はこれまでさまざまな疑惑を打ち消してきたが、バイデン氏による恩赦を受理すれば、そのこと自体、違法行為に関し自分の罪を認めさせることになる。トランプ氏がそれ以外の理由で自分の罪を認めることはありえない。先の大統領選挙では、7300万人が彼を支持し、トランプ政権下での国論分断が露呈した。それでも、各種世論調査では、大多数の国民が今なお、自分たちはお互いに対立する部分より共有し合う部分の方がまだ多いと信じていることが示されている。バイデン氏によるトランプ恩赦は、かつて46年前にフォード大統領がニクソン氏を恩赦したのと同様に、わが国家の傷をいやし、政権が代わるごとに両党が政治報復し合う負の連鎖を断ち切ることになる」として、国の統一のためにも恩赦が望ましいと論じた。

 ところが、ツイッター、フェイスブックなどSNS上では、同氏の番組終了直後から賛否の意見が殺到、一時炎上状態となったが、そのうち大半は「コンウェー氏批判」だった。その中には以下のような痛烈なものまであった:

 「とんでもないことだ。国家統一が目的だというなら、いっそのことトランプだけでなくアメリカ中の悪党ども全員を恩赦すべきだ」

 「トランプ恩赦絶対反対。そのこと自体、(彼が)コロナウイルスで26万人を死に追いやり、アメリカ国民からデモクラシーを簒奪した行為を記憶から遠ざけることになる」

 「そもそもフォードがニクソンを恩赦したから、今こんなことになったのだ。もし、フォードがニクソンの犯したすべての罪の告発を支持していたならば、トランプは今日、同じ悪業を重ねてこなかっただろう。(恩赦は)実に馬鹿げている!」

 「あれだけ罪深いことをやり続けてきた男は恩赦に値しない。バイデン大統領は彼をきちんと罰し、国民の前に教訓を示すべきだ」    

 このように賛否両論が交錯する中で、今最も苦悶しているのがバイデン氏自身だろう。バイデン氏は大統領選での勝利が確実となった11月半ば、記者会見で「民主党でも共和党でもなく国民全体のために仕事をする」と語り、党派を脱し国民統一に重きを置く政治をすすめる姿勢を明確にした。もしこの言葉を額面通りに受け止めるとすれば、退任後のトランプ氏の罪状が具体的に浮上してきたとしても、深追いを避け、恩赦を出すのが道理ということになる。

 しかしその一方で、バイデン氏は恩赦を行った場合のリスクも考慮せざるを得ない。1974年フォード大統領による「ニクソン恩赦の教訓」が脳裏にあるからだ。

 当時、フォード大統領は多くの批判があったにもかかわらず、恩赦に踏み切ったが、ワシントン・ポスト、ニューヨーク・タイムズなど有力各紙が社説で「大統領のクレディビリティを貶める決断」「ニクソンが犯した罪を隠蔽する行為」などと一斉に糾弾、フォード大統領支持率も一夜にして21%にまで急落した。結局、76年大統領選で再選を果たせず、みじめな敗北を味わされることになった。

 もしバイデン氏が1期だけに満足せず、「2024年再選」も視野に入れているとすれば、全米民主党支持者の間でのトランプ氏に対する憎悪は並大抵ではないだけに、恩赦に対し慎重にならざるを得ないだろう。

 従ってバイデン氏にとってはできれば、この悩ましい「二者択一」の選択を何らかの形で回避できれば、それに越したことはないはずだ。


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