「buyer’s remorse」
4年前、トランプ政権発足以来、米メディアの政治評論の中で「buyer’s remorse」という言葉がひんぱんに登場するようになった。
直訳すればそのものズバリ、衝動買いした人が後で粗悪品であることに気づき後悔するという意味だが、最近のアメリカでは、2016年大統領選挙で「異端児」として登場したトランプ候補の巧みな舌鋒に惑わされ投票、当選させたものの、その後の大統領としての品性、失政、傍若無人の言動に失望し、後悔し始めた有権者たちのことを指している。
実際、G.W.ブッシュ元共和党政権下で要職にあった政府高官たちの多くが、トランプ政権に幻滅し、昨年大統領選ではジョー・バイデン民主党候補に投票したことは周知の事実だ。そして今回、トランプ支持を叫ぶ暴徒が米議会に乱入する衝撃的シーンを多くの国民が目の当たりにして、より幅広い層に「buyer’s remorse」が一段と広がったことは想像に難くない。
米議会でも、今回の惨事を機に、迷走を続けてきた「トランプ丸」からかなりの数の共和党議員たちが我が身可愛さゆえに脱出し始めたようだ。だがなお、船内には、船長に忠誠を尽くす信奉者が下院で130人、上院で10人前後居残っていると伝えられる。いまだにバイデン氏の勝利を認めず、「略奪された大統領選挙」(トランプ大統領)を信じ続ける狂信的政治家たちだ。
そして彼らのそれぞれの選挙区には、大統領の非常識極まりない主張を支持する市民たちがいまだに多数いると推定される。だとすれば、今回の事件はトランプ大統領一人に責任をかぶせて済む問題ではなく、現状のままでは、近い将来、第二、第三の“トランプ事件”を引き起こすことにもなりかねない。
米国民は今こそ、世界に恥をさらけ出す原因となった無責任、無能の実業家を大統領に選出したことの重大性とその責任に改めて思いをいたすと同時に、今後、トランプ政権に象徴されるポピュリズム(衆愚政治)がもたらす危険性に対し、より一層警戒を強めていけるかどうかがまさに問われている。
その意味で「2021・01・06」は、米国民全体にとっての「恥辱の日」「自省の日」として歴史に末永くとどめおかれるべきであろう。
こうした中、前日の5日、ジョージア州における上院2議席をめぐる決選投票で、民主党から立候補したバランス感覚に優れ常識をわきまえたベテラン黒人判事、そして33歳のユダヤ人政治家が揃って当選を果たしたことは、疲弊したアメリカ・デモクラシーにとって一服の清涼剤でもあった。
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