Washington Files

2021年1月4日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

 バイデン次期政権の核心的政策課題「グリーン革命」は米国のみならず、世界中に想像以上のインパクトを与える内容を含んでいる。そして計画通り推進された場合、それがグローバルな産業革命を引き起こす可能性も―。

(mj0007/gettyimages)

 いまさら言うまでもないことだが、「産業革命」とは、18世紀後半に英国で始まった技術革新による産業構造の大変革と経済発展をさす。具体的には綿工業(主に家内工業)での手作業に替わり機械の発明、さらに蒸気機関と石炭を中心とした生産技術の革新とエネルギー転換をいう。その結果、機械工業、鉱工業といった重工業を生み出し、鉄道、蒸気船の実用化による交通革命をもたらした。1世紀後にはイギリスから新大陸のアメリカにブームが波及、近代西欧文明の基礎となったことは歴史の示す通りだ。

 バイデン民主党政権が1月20日発足とともに大々的に打ち出す地球温暖化克服のための「グリーン革命」は、これに匹敵するアメリカ産業の大転換をもたらす可能性を秘めており、やがてそれが、国境を越え、世界規模の「産業革命」のエンジンにもなりうる内容を含んでいる。

 バイデン氏は昨年の大統領選挙戦を通じ、「パリ協定」離脱に象徴されたトランプ政権の反環境政策とは対照的に、地球温暖化対策を大胆に推進する姿勢を有権者にアピールしてきた。別名「バイデンのグリーン革命Biden’s Green Revolution」とも呼ばれ、勝利確定後、単なる選挙スローガンではなく大統領就任初日からただちに計画を推進していく確固たる決意を表明している。その意気込みは、他の閣僚人事に先立って、超大物かつバイデン大統領とは上院議員時代からの永年の盟友でもあるジョン・ケリー元国務長官(77)を特設の「地球温暖化問題大統領特使」に任命すると同時に、ホワイトハウス国家安全保障会議(NSC)で中心的存在となると述べたことにも表れている。 

 その中身だが、単なる環境対策の域を超え、基幹産業、交通、エネルギー、技術革新、農鉱業、国家安全保障、通商、金融・財政など広範囲におよぶ意欲的なものであり、以下のような具体的方針が盛り込まれている:

 まず、グリーン革命は、2035年までに発電部門での再生エネルギーによる脱炭素化、2050年までに全産業を通じカーボン・ニュートラル化をめざすことを長期目標として掲げた上で、目標達成の具体的措置として以下の諸項目を列挙した:

①すでに300万人を突破しているクリーン・エネルギー産業関連の雇用者について、今後、脱炭素化の技術革新、投資拡大などを通じ、1000万人以上の雇用創出をめざす。

②農業、エネルギー、先端製造工業などへの財政支援、投資拡大、税制優遇措置により、アメリカが未来産業のリーダーとなる。

③インフラ整備・拡大は経済成長の要諦であり、バイデン政権は今後、クリーン・エネルギー化を反映した分野で優先的に公共投資を大胆に拡大していく。

④米国工業発展を主導した2世紀前の「第一次鉄道革命」に次ぐ「第二次鉄道革命」を起動させる。その中には移動時間を5割短縮できるワシントンDC-ニューヨーク間高速鉄道、カリフォルニア州高速鉄道プロジェクトの完成、北東部回廊の南部への拡張、中西部から大西部に至る沿岸沿いの高速鉄道をそれぞれ建設する。

⑤新電力インフラへの公共投資を通じ国家的電力グリッドの向上を促進させる。

⑥自動車分野での電気自動車(EV)普及を後押しするため、EV用充電ステーション50万カ所以上を全米に新設する。

⑦航空機排気ガスによる「温室効果率」の上昇を食い止めるため、現在の燃料に替わる新エネルギーの開発および、燃料効率を高めるための航空機技術革新に取り組む。

⑧脚光を浴び始めている大気中の二酸化炭素に対する「捕捉・使用・貯蔵」(略称CCUS)技術の開発および投入を加速させる。

⑨現存の原発と比較し建設コスト半分以下の小型モジュラー原子炉の開発に取り組む。

➉温室効果ガスの出ない家庭用冷蔵庫、空調機などの量産に取り組む。

 脱炭素社会の実現に向けてはすでに、欧州各国のみならず、中国、そしてわが国も本格的に取り組む構えを見せ始めている。しかし、バイデン政権の「グリーン革命」は①財政出動の規模の大きさ②エネルギー政策にとどまらず未来志向型の広範囲におよぶ産業技術革新をめざしている③米国一国のみならずグローバル協調を大前提としている④グリーン外交を通商政策とリンクさせ、各国にも環境基準順守の強制力を持たせる―などの点で、他国とは際立った特徴がある。

 まず、予算規模だが、環境・インフラ投資に4年間で2兆ドル(約210兆円)を支出する大計画であり、「連邦政府調達システムの運用により、毎年5000億ドルずつ支出する」ことを明記した。さらに、クリーン・エネルギーに寄与する「未来型産業の創出」目的で今後10年間に4000億ドル投資を行うことも謳っている。

 また、計画推進は連邦政府主導となるものの、全米の大学、コミュニティ・カレッジ、製造関連研究所、起業育成組織、企業経営者、労働組合、州および地方自治体とも緊密な連携の下に、繊維、工作機械、メタル鋳造に至るまで幅広い分野の先進的製造テクノロジー開発を目指すとともに、そのための税制優遇措置、財政支援・投資も行う方針だ。

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