2022年12月5日(月)

Washington Files

2021年1月4日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。著書に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

パリ協定への即日復帰と「温暖化世界サミット」の招集

 しかし、「地球温暖化」はひとりアメリカだけの問題ではなく、まさにグローバルな対応が不可欠となる。そこで、「バイデン・プラン」は世界中の主要国による断固たる行動の重要性を強調、バイデン政権発足初日(1月20日)に「パリ協定への復帰」宣言を打ち出すとともに「それだけでは不十分だ」とした上で、大統領就任100日以内に①世界の主要炭素排出国指導者による「温暖化世界サミット」を招集する②アメリカが率先して船舶および航空機運航による温暖化ガス排出低減のための国際取り決め厳格化に着手する③温室効果ガスのハイドロフルオロカーボン規制強化のため「モントリオール議定書」キガリ改正条項を全面的に受け入れる―などの方針を打ち出した。

 さらに「国際協調」の重要性を強調するのみでなく、各国の環境政策をアメリカとの通商政策に明確にリンクさせた点でも際立っている。

 この点について「バイデン・プラン」は「われわれはもはや、わが国の通商政策を温暖化対策目的から切り離すことをせず、他の諸国による地球温暖化対策取り決め違反行為に対しては新たな強硬措置を講じる用意がある」と宣言した。このことは、今後アメリが主導する広範囲に及ぶ脱炭素化措置への同調を各国に半ば義務付けると同時に、違反した場合、経済制裁の対象となることを明確にしたものだ。

 こうしたアメリカの強い決意を世界各国に訴え、脱炭素化社会実現のためにグローバルな取り組みを主導するのが、ホワイトハウス内に新設される閣僚級の「地球温暖化大統領特使」であり、ジョン・ケリー氏が初代の任に就く。

 従って各国は、アメリカが依然として世界最大の経済国であるがゆえに、バイデン政権発足とともに、今後否が応でも、アメリカと歩調を合わせたクリーン・エネルギー政策を打ち出さざるを得なくなり、結果的に、世界規模の新たな産業革命を引き起こすきっかけになる可能性を秘めている。

 この点に関連し、「バイデン・プラン」が世界第二位の経済大国にのし上がった中国に対し、とくに厳しい姿勢で臨む構えに繰り返し言及していることも興味深い。従って中国としては、バイデン新政権が発足と同時に、多岐にわたる新たな環境基準が打ち出していった場合、巨大市場を抱えるアメリカの存在を無視するわけにはいかず、結果的に中国におけるエネルギー革命を加速させることもあり得る。

 アメリカの環境政策が世界に及ぼす影響については、過去、「マスキー法」が有名だ。1970年、酸性雨対策、オゾン層保護を目的とした「大気浄化法clean air act」の大幅改正法が米議会で成立、このため、対米輸出をめざす日本、英仏独などの先進各国自動車メーカーが一酸化炭素、炭化水素、窒素酸化物排出量の大幅削減目標達成のため、一斉に技術革新を余儀なくされた。やがて世界中のメーカーも大気汚染の少ない車の生産に乗り出した結果、健康被害や酸性雨などの環境汚染にある程度ブレーキがかけられた経緯がある。

 しかし、今回の「バイデン・プラン」はたんに自動車排気ガス規制にとどまらない。鉄道、航空機、船舶などの交通手段から生活用品、工作機械、農産品などあらゆる分野に及んでおり、米国との通商に重きを置く関係各国は今後、同レベルの環境基準に合わせるため、アメリカ同様に多岐にわたる技術革新を迫られることは必至だ。

 すでにわが国政府は昨年12月25日、2050年の温室効果ガス排出量の実質ゼロに向けた「グリーン成長戦略」を発表した。そして洋上風力発電やEV本格開発など「脱炭素14分野」の数値目標を具体的に掲げている。

 しかし、日本にとって最重要同盟国であるアメリカが、単に環境分野のみならず、交通・輸送全般、製造業、農水産業にまで踏み込んだ技術革新に乗り出す計画が明らかにされたことで、日本としてもさらなる努力と追随を迫られることは必至だ。

 もちろん、「バイデン・プラン」の今後に死角がないわけではない。直近の懸念材料として挙げられているのが、今月5日に行われるジョージア州における上院議員2議席の決戦投票の結果だ。もしここで、民主党が2議席のうち1議席でも失えば、共和党が上院で多数を制することになり、2兆ドルの環境・インフラ投資実現が難しくなる恐れもある。

 ただ、今回、「グリーン革命」のための大規模予算出動は、コロナ危機で大打撃を受けた経済再浮揚のための重要施策と位置付けられるだけに、米議会では、予算先議権を握る民主党配下の下院のみならず、上院としても、真っ向からは反対しにくい事情がある。さらに、世論調査などでも常に国民の過半数が、地球温暖化問題を重視しつつあるだけに、上院でも民主党のみならず、穏健派の共和党議員最低5~6人程度は支持に回るとの見方も出ている。なぜなら、もし、共和党がこれに反対し続けた場合、2年後の中間選挙で改選州によっては議席減も覚悟しなければならなくなるからだ。

 また、バイデン・チームは大計画公表に当たり、ジョージア州上院決戦投票の結果も十分視野に入れた上で、かりに上院を共和党が制した場合でも、議会の承認を必要としない大統領主導の「行政措置」を積極果敢に講じていくことも指摘している。

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