Washington Files

2020年12月28日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

 2020年共和党全国大会は去る8月、党史上初となる“椿事”のまま4日間の幕を閉じた。大統領選が行われる4年ごとの党大会では、民主、共和両党ともに、それぞれ党指名候補の選出と同時に、次期政権発足に向け独自の政策方針を示す「政策綱領」を採択するのが長年の慣例となってきた。ところが共和党だけは今回、再選に向けたトランプ・ペンス正副大統領候補指名と、わずか1ページの「大統領のアメリカ・ファースト政策支持」宣言を満場一致で承認したのみで、「政策綱領」抜きのまま閉幕した。1854年党結成以来、党としての詳細な政策方針が国民の前に示されなかったことは一度もない異例事態だった。

(AP/AFLO)

 理由は明らかだった。トランプ氏がその必要性を認めず、大統領としての剛腕ぶりに骨抜きにされた格好の共和党首脳陣が、施政についての「白紙手形」を彼に出さざるを得なくなったからにほかならない。

 英国BBC放送は「この瞬間、共和党が『トランプ党』に変質した」と報じた。

 その後、上院、下院を問わず、共和党議員たちのほぼ全員が、大統領が次々に打ち出す常軌を逸する「大統領命令」や言動にも異議を唱えることなく、黙認してきた。その様はまるで「金縛り状態」とも言えた。

 これが端的に示されたのが、今回大統領選投票後、まったく根拠のない「大規模不正」を理由にバイデン氏の当選を否認し続けるトランプ氏の主張に同調する共和党議員たちの驚くべき隷属ぶりだった。

 とくに下院では、テキサス州共和党議員が今回大統領選挙におけるミシガン、ペンシルバニア、ウイスコンシン、ジョージア各州の選挙結果の「無効化」を求め最高裁に上告する前代未聞の無謀な行動に出た際に、これを支持する124人もの同党下院議員が「法廷助言書amicus brief」にまで署名した。

 上院でも、はじめから上告での勝算は皆無に近いことを承知しつつも、トランプ氏への気兼ねから、民主主義体制を根本から揺るがす突飛な法廷闘争に目をつむったままだった。結局、最高裁は共和党系判事が6人の多数を占めながらも、この訴えを門前払いのかたちで却下、共和党は世間の恥さらしとなった。

 その後、各州に割り当てられた計538人の大統領選挙人が去る12月14日、正式に投票した結果、トランプ支持票232に対し、バイデン支持票306の大差でバイデン氏の当選が最終確定した。それでもなお、共和党議員の多くは、トランプ大統領同様、敗北を認めず、「選挙は略奪された」との従来からの何の根拠もない主張を繰り返している。

 中でも際立っているのが、下院共和党のトップの座にあるケビン・マッカーシー同党院内総務(カリフォルニア州選出)の存在だ。同議員は当選歴も浅く、政治実績、人望面でも精彩を欠いてきたが、2016年大統領選当初からトランプ候補を熱烈支持してきたことで大統領の厚い信頼を得た。2年前の院内総務選出レースでは、トランプ氏の強力な後押しで他の大物候補たちを退け、下院最高ポストの座についたという筋金入りのトランプ支持者として知られる。

 今回の選挙結果についても、それまで沈黙し続けてきた上院のトップであるミッチ・マコーネル同党院内総務が、今月14日の選挙人投票で最終結果が確定した段階でようやく「バイデン当選」を公言したのとは対照的に、マッカーシー議員だけは依然、大統領同様に「選挙は略奪され無効」との主張を崩していない。124人という多数の同党下院議員が「選挙無効」を訴え最高裁上訴に名を連ねたのも、明らかに院内総務の意をくんだものだった。上院でも共和党は、トランプ大統領からの“戦列離脱”の批判を恐れ、いまだに多くの議員が「トランプ敗北」を表立って認めていない。

 こうしたマスコミからも冷笑を浴びるほどの共和党の卑屈な姿勢は、2016年大統領選当時とは大違いだ。

 前回、予備選が始まる前年の2015年の時点で共和党では、マルコ・ルビオ、テッド・クルス両上院議員、ジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事(G・W・ブッシュ元大統領の実弟)、ジョン・ケーシック元オハイオ州知事ら有力者10数人が早くから名乗りを上げる一方、同年6月に立候補を正式表明したトランプ氏は同党主流派から“異端児”扱いされてきた。翌2016年2月1日、選挙戦の口火を切ったアイオワ州党員集会でテッド・クルス候補が1位、トランプ候補2位、ルビオ候補3位、これに続く同月9日のニューハンプシャー予備選でトランプ氏が2位以下のケーシック、クルス候補らを押さえついに1位に躍り出てからも、共和党全国委員会(RNC)幹部たちは、極端な人種差別発言や女性スキャンダルで世論を揺さぶるトランプ候補の存在を厄介者扱いし続けた。

 その後、他州での予備選でもトランプ候補の独走態勢がはっきりしてきた3月半ば時点で、ルビオ、ブッシュ各氏らほとんどの候補が選挙戦から相次いで撤退を表明、同年8月の党大会でトランプ氏が党候補として最終指名された段階でも、なお共和党議員たちのトランプ批判はあいついだ。

 たまたま筆者は当時、ワシントンに駐在し、こうしたいきさつをつぶさに見てきただけに、それからわずか4年の間に、共和党とトランプ氏の“主従関係”がかくも見事に逆転したことに驚かされた。

 そして今日、共和党はBBCがいち早く指摘した通り「トランプ党Trump Party」になり下がってしまった。

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