2024年11月22日(金)

Washington Files

2021年2月8日

 アメリカはレーガン政権が2期目にはいった1980年代半ばから、軍事支出の増大と大幅減税によって巨額の財政赤字と累積債務の増加をもたらし、成長にブレーキがかかりつつあった。一方、日本においては、経常収支は80年代半ばから着実に黒字に転じ始め、日本の貯蓄超過が際立つようになっていった。さらに日本の大手企業は、円高ドル安の波に乗って余剰資金で米国内の不動産をつぎつぎに買いあさり、企業乗っ取りに奔走したため、米国内で「ジャパン・バッシング」の機運が高まりつつあった時期にあたる。

 そして1989年には、三菱地所がアメリカ資本主義のシンボル的存在であったニューヨーク中心街のロックフェラーセンターを、1990年にコスモ社がカリフォルニア州の名門ゴルフ場、ペブルビーチ・カントリークラブを買収するなど、日本企業による“アメリカ買い”がより一層大きな論議を巻き起こした。

 たまたま筆者は、新聞社の2度目のワシントン特派員だったが、ニューヨークを訪れると、マンハッタン中心部のカラオケ・バーは日本商社駐在員たちでいつもにぎわい、「アメリカの時代は終わった」「日本に比べ勤勉さも学力も落ちる」などと豪語しながら酒盛りをしていた光景を今でも鮮烈に記憶している。

 トランプ氏の反日感情は、こうした時代背景の下で醸成されていったことは想像にかたくない。

 彼はその後、たんなる実業家にとどまらず、アメリカ人の愛国心を巧みにかきたてる「ポピュリズム」(大衆迎合主義)扇動者としても名前が知られるようになった。そして2000年には右翼的第三政党の「改革党」から大統領選に出馬、日本などを標的とした得意の「同盟諸国の防衛ただ乗り」論をふりかざしたが、この時は予備選段階で、ベテラン論客で知られたパット・ブキャナン氏との指名争いで敗退の憂き目に会った経緯がある。

 しかし、トランプ氏の政治的野心はそこで終わったわけでは決してない。

「日本は米軍の駐留費全額を負担すべきだ」

 2016大統領選に立候補したトランプ氏は、選挙期間中から「日本は米軍の駐留費全額を負担すべきだ」との型破りの主張をくりかえし、日本政府当局を困惑させてきた。ただこれは、かつて新聞意見広告で「日本安保ただ乗り論」を展開した時と同様の、対日不満の裏返しだったにすぎない。

 そしてより具体的に、2017年大統領に就任したトランプ氏は、その後の安倍首相との首脳会談などを通じ、日本の防衛分担増を要求してきた。

 この点について、側近として仕えたジョン・ボルトン大統領国家安全保障担当補佐官は退任後、出版した回顧録の中で、①2018年6月、ワシントンを訪問した安倍首相に対し、トランプ氏が直接、日米貿易不均衡の是正を求めるとともに、日本側の不十分な安保協力に対する不満を表明した②2019年7月、大統領が国賓として来日した際に、日本側に在日米軍経費負担を約4倍の約80億ドル(約8700億円)に増やすよう求めた―ことなどを暴露した。

 ボルトン氏によると、大統領は日本と同様に、韓国に対しても、在韓米軍維持費として50億ドル負担するよう求め、もし応じない場合は在韓米軍撤退もありうることを示唆したという。

 4年間の在任期間中、トランプ氏は日韓両国のみならず、NATO諸国に対しても、同様の主張を繰り返し、同盟関係全体に重大な亀裂を生じさせる結果を招いた。

 しかし、他国の世話に煩わされることなく自国の利益を最優先するというトランプ氏の「アメリカ・ファースト」の個人的理念は、30年以上前から首尾一貫し何ら変わっていないことが明白になった。

 もし、そのトランプ氏が万が一にも(その可能性は限りなく少ないが)、2024年大統領選に再出馬し、ホワイトハウスにカムバックを果たすことになれば、わが国はじめ同盟諸国は再び同様の苦しみを味わされるに違いない。

  
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