Washington Files

2021年2月8日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

 トランプ前大統領は今から30年以上も前に、アメリカの有力3紙に異例の全面意見広告を掲載、日本の「防衛ただ乗り」を痛烈に批判していた。その基本的姿勢はトランプ政権の4年間も不変だった。

(mariusz_prusaczyk/gettyimages)

 トランプ大統領は在任中、世界各国首脳の中でもとくに安倍首相(当時)との親密な関係を維持してきたことで知られる。だが、両国外交・経済関係がとくにめざましい前進を遂げたわけではない。むしろ、安全保障問題をめぐっては、対日防衛分担増をしつように求めるなど、ぎくしゃくした関係が続いた。

 過去4年間のトランプ外交・安全保障政を振り返ると、日本および欧州同盟諸国の防衛努力に対する不満と見境のない防衛分担要求に彩られ、相互不信を増幅させる結果を招いたことは否めない。

 なぜそうなったのか―。ヒントは、34年前にあった。

 1987年9月2日、ニューヨークの不動産実業家として頭角を現しつつあったトランプ氏は、突如として米東部海岸の代表紙3紙(ニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポスト、ボストン・グローブ)に対し、「アメリカは、なぜ自力防衛能力を保持する諸国への出費を打ち切るべきか」と題する1ページ全面の意見広告をそれぞれ掲載した。

 「アメリカ国民へ―ドナルド・トランプからの公開状To American people from Donald Trump―an open letter」の書き出しで始まるセンセーショナルなアピールは以下のようなものだった:

 「日本およびその他の諸国は過去何十年にもわたり、アメリカを出し抜いてきた。その長きにわたる不幸な状況(saga)は今日も続いており、わが国にとって自国への原油供給上ほとんど意味をなさないが、日本などにとっては死活的に重要なペルシャ湾防衛のためにアメリカが任務を負わされている。なぜわが国が、これらの国の利益を守るために、何十億ドルもの負担を余儀なくされるのか。なぜ、彼らは応分の犠牲を払わないのか。わが国が、自国籍でもないタンカー、自国には必要としないが自助努力もしない諸国にとっては重要な石油防衛の任務についていることは、世界の笑い草にもなっている」

 「日本は、アメリカの対日防衛にただ乗りし、自衛のための莫大なコストを免れ、かつてない規模の貿易黒字を生み出し、強力な経済を築いてきた。彼らは対ドル円高を巧みに操り、アメリカが日本など諸国防衛のために莫大な出費を余儀なくされている間に、世界経済のトップランナーとなってきた」

 「今やわが国は、日本その他の諸国にきちんと防衛負担させ、わが国の膨大な貿易赤字にピリオドを打つべき時が来た。アメリカの世界防衛コストはこれら諸国にとって何兆ドルにも値するものであり、彼らにとって国益保護のためのリスクは、わが国に比べはるかに大きいはずだ」

 「日本、サウジアラビアその他同盟諸国の防衛は、彼ら自身にやらせるべきだ。そしてわが国の農民、病人、ホームレスたちを救済しようではないか。これらの国に今こそ“課税(tax)”することでわが国の国税を減らし、米国経済の再興を促そう。世界の笑いものにされる時代を終わらせるべきだ」

 トランプ氏はこのような激しい口調の意見広告のために当時の金で9万4800ドル(同氏スポークスマン)もの大金を掲載料として支払ったが、日本などを標的としたバッシングはこれだけにとどまらなかった。

 同日深夜、当時のCNNテレビ人気トークショー「ザ・ラリー・キング・ライブ」に生出演、新聞意見広告を読んだ視聴者の質問に答えるかたちで、次のように同趣旨の自説を開陳している:

 「日本やサウジ、それにNATO諸国の多くは、アメリカとの同盟関係にありながら、長い間、自らの防衛のために十分な努力を怠り、防衛ただ乗りを当たり前のように続けてきた。そして今や世界有数の富裕国になった。その一方、わが国はこれらの国の安全確保のために多大な出費と犠牲を強いられ、経済的にまじめな状況になってしまったのだ。こんな馬鹿げたことがいつまでも続いていいわけがない。我々は考え直さなければならない。こんな連中のために莫大な金を使うのであれば、その分をわが国の貧困者や病弱者、農民たちを守る事業に回すべき時が来ている。もはやこれらの国にはビタ一文も支払うべきではない……」

 まだ40歳の血気盛んな不動産屋だったトランプ氏がなぜ、こんな激しい反日キャンペーンに乗り出したかを理解するには、当時のアメリカそして日本との関係を改めて振り返る必要がある。

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