Washington Files

2021年1月25日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

 退任したばかりのトランプ氏があまたの刑事、民事訴訟問題に加え、今後数年以内に莫大な債務返済に迫られ、ピンチをいかに切り抜けられるかが注目されている。自慢のホテル・ビジネスもコロナ危機のあおりで軒並み赤字を計上、主要取引銀行から縁切り宣告を受けるなど悩み山積だ。

(NiseriN/gettyimages)

 「借金4億2100万ドル? そんなのピーナツだよ It’s a peanut!」―昨年10月、遊説先のタウンミーティングで、自ら所有する会社の巨額累積負債について追及されたトランプ大統領はこう大見えを切って見せた(ニューヨーク・タイムズ紙2020年10月16日付)

 「4億2100万ドル」という数字は、同紙特別調査チームが過去20年近くにわたるトランプ氏の納税記録にアクセスしはじき出したもので、このほか調査報道では①首都ワシントンのトランプ・インタナショナル・ホテル経営で1億6000万ドルの融資を受けた②フロリダ州ドラル・ゴルフリゾート投資で1億2500ドルの負債を抱えている③両者ともに赤字が続き、倒産回避目的でトランプ氏は個人的に2億6180万ドルのキャッシュ注入を余儀なくされた④個人保有の株・債券のうち2014年に9800万ドル、2015年に5400万ドル、2016年に6820万ドル分を売却、残り現金化可能な保有株・債券は2020年7月時点で87万3000ドルのみとなった⑤2018年時点のトランプ氏の手元現金は2013年当時より40%減の3470万ドルとなった―などの経営内容が明らかになった。

 しかし、トランプ氏が抱える借金は実際は、この3倍近くに達するとの試算もある。

 英国「ファイナンシャル・タイムズ」紙は、トランプ氏関連の金融関連資料の分析を下に「最低でも10億1000万ドル」と報じ、その具体的裏付けとして、以下のような項目が含まれると説明している:

  1. ニューヨークおよびサンフランシスコ両市ダウンタウンにある高層タワービルを所有するVornado Realty Trustとのパートナーシップ契約により、借入金総額15億ドルの30%に当たる4億4700万ドルについて返済義務がある。しかも両ビルとも、コロナ危機のあおりで資産価値が前年比13%、5%それぞれ下落、空室率が増加しつつある。
  2. トランプ氏の所有する不動産のほとんどがCMBSと呼ばれる不動産信託債権として売りに出されており、総額で2億5700ドルに達している。CMBS会社は債権者に対する報酬支払のため債務者(トランプ氏)からそのつど費用を徴収するが、支払い不能となった場合は財産没収となる。これまでのところ、トランプ氏のCMBS対象物件の中で没収措置がとられたものはないが、ニュヨーク市セントラルパーク・ウェストのトランプ・インタナショナル・ホテルは収益が激減、「リスク対象物件」にリストアップされている。
  3. ドイツ最大のドイツ銀行DeutscheBankは、トランプ氏が所有するシカゴ、ワシントンの両ホテル、およびマイアミ・ゴルフ・リゾートのために合計3億4000万ドルを融資しており、このうち、ワシントンのホテルで5500万ドル、マイアミのリゾートで1億6200万ドルの赤字をそれぞれ計上した。
  4. ワシントンのホテル、シカゴのタワー関連でChicago Unit Acquisiton Trustから5000万ドル借入があり、返済を迫られている。
  5. トランプ氏が抱える借入金総額のうち、約9億ドル分については、2024年までに返済義務がある。

 こうしたトランプ・ビジネスにさらに暗い影を落としたのが去る6日、大統領の扇動による暴徒化したトランプ支持者の米議会乱入・占拠事件だった。全世界に大きな衝撃を与え、事件以来、米国内でもスポーツ界含めた民間組織、団体、金融界、経済団体の間で“アンチ・トランプ”の動きが続いている。

 全米プロゴルフ協会(PGA)は、来年、トランプ氏が所有するニュージャージー州ゴルフ場で予定していたチャンピオンシップ開催について「名誉あるPGAの伝統を汚す」としてキャンセルすると発表した。また、同じくトランプ氏が買収した英国スコートランドの

「ターンベリー・カントリークラブ」で行われることになっていた全英オープンも中止されることになった。

 ニューヨークのビル・デブラシオ市長は、トランプ事業の総本山である「トランプ・オーガニゼーション」との間で交わしていたセントラルパーク内のスケートリンク、ブロンクス地区のゴルフコースなどのすべての契約打ち切りを発表した。

 「ガールスカウト・ニューヨーク支部」はウォール街の「トランプ・ビルディング」にあるオフィスのテナント契約解消を決定した。

 これまでトランプ所有のビル管理業務を請け負ってきた不動産大手「Cushman and Wakefield」はスポークスマンを通じ、「今後はトランプ氏にかかわるビジネスから一切手を引く」との声明を発表した。

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