2022年12月5日(月)

Wedge REPORT

2021年3月4日

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 「思想創り」の次に取り組んだのは、ハード整備だ。15年、東日本大震災を教訓として、住民の避難など災害に強いまちづくりに資する地方単独事業を対象に「緊急防災・減災事業債制度」が設けられた。これによって、黒潮町でも国と県の負担によって「津波避難タワー」の建設を行うことができた。町内佐賀地区の避難タワー(1頁右上写真)は標高25.4㍍(想定浸水18㍍)、収容人数230人となっている(このタワーから海側に居住している住民の約7割を収容することを想定しているが、横になることを想定して計算しているため実際の収容可能人数は増えるという)。このような避難タワーを計6基建設した。合わせて300カ所に及ぶ避難路も整備した。

 「堤防建設や避難タワー設置などハード整備の議論からはじめると、予算がない、人もいないと、思考停止になっていたはずだ。思想創りから入ったことが良かった」と、松本町長は振り返る。ハードを整備したうえで、16年から夜間の避難訓練も開始した。これまで3回実施している。雨天中止となってしまった際にも、地震に備えるためのシェイクアウト訓練(「姿勢を低く、頭を守り、動かない」安全確保する行動をとる訓練)は実施しているという。こうした訓練を通じて住民の意識をさらに高めることもできる。

鎌倉市、東京都
人口密集地の津波対策

 最大人口密集地である首都圏、中京圏、関西圏に住んでいると、「自分に津波は関係ない」と思いがちだが、そうとは限らない。例えば、神奈川県鎌倉市。年間の観光客が1900万人にも上り、夏には多くの海水浴客も訪れる。鎌倉市防災安全部総合防災課の末次健治さんは「かつて関東大震災で被害を受けたこともあり、津波ハザードマップを作成したり、町内活動で避難訓練をするなど、総じて津波への意識は高い」と話す。しかも、東日本大震災を受けて、その意識はより一層高まっているという。津波が押し寄せた際には「自動車を捨てて、歩いて避難する」「海岸では赤白の格子模様の旗が振られる」など、観光客でも最低限のことは知っておく必要がある。

 一方、鎌倉市で想定する津波の高さは14.5㍍で、最短到達時間は8分。海のそばまで市街地が続いているので巨大な避難タワーを作ることは難しい。その代わりに人々が逃げ込むことができる「津波避難ビル」の指定を進めているが、現在は30カ所ほどしかなく、避難困難者は9000人に上ると想定されている。

 さて、最後に首都・東京ではどうだろうか。東京都港湾整備部計画課の村岡洋次郎さんによれば「島しょ部は別にして、東京都区部で問題となるのは高潮だ」と指摘する。伊勢湾台風級の台風による高潮に対応できるよう、防潮堤を整備している。伊湾台風級の台風により想定される高潮の高さは、地区によって異なるが、4.1~5.1㍍となっている。一方、防潮堤の高さは、4.6㍍~8㍍としており高潮に対して十分安全な高さを確保している。

 しかし、災害は津波や高潮だけではない。近年、頻発するさまざまな激甚災害にいつ遭遇するかは分からない。そうした意味で黒潮町のように防災の「思想創り」により、行政と住民が一体となって諦めない意識の醸成と訓練を重ねることは、地方に限らず都市部でも学べることは多いはずだ。

Wedge3月号では、以下の特集を組んでいます。全国の書店や駅売店、アマゾンなどでお買い求めいただけます。
■「想定外」の災害にも〝揺るがぬ〟国をつくるには
Contents     20XX年大災害 我々の備えは十分か?
Photo Report     岩手、宮城、福島 復興ロードから見た10年後の姿

Part 1    「真に必要な」インフラ整備と運用で次なる大災害に備えよ  
Part 2     大幅に遅れた高台移転事業 市町村には荷が重すぎた             
Part 3     行政依存やめ「あなた」が備える それが日本の防災の原点      
Part 4   過剰な予算を投じた復興 財政危機は「想定外」と言えるのか   
Part 5     その「起業支援」はうまくいかない 創業者を本気で育てよ          
Part 6   〝常態化〟した自衛隊の災害派遣 これで「有事」に対応できるか

  
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◆Wedge2021年3月号より

 

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