2024年7月14日(日)

近現代史ブックレビュー

2021年3月17日

軍事大国とは程遠かった日本

 次に、本書の軍縮についての記述も非常に正確であり重要であることを指摘しておきたい。著者は昭和初期・1929年における、日本の陸軍の装備を正確な資料に基づいて他国と比較し掲げている(70頁)。以下の通りである(単位は省略)。

 飛行機=日500、英1500、米1600(増強中)、仏4000、ソ1000(増強中)、

 戦車=日40、英220(他装甲自動車200)、米360(予備戦車含め1000)、仏3400、ソ180(他装甲自動車370)、

 高射砲=日40、英48、米309(他高射機関銃4813)、仏200、ソ44

 これを見ると、当時の日本陸軍は軍事的に劣勢となっており、軍事大国とはとても言えなかったことがよくわかる。当時宇垣軍縮という軍縮が行われ4年にわたる近代化政策の結果がこれであった。世界的に軍縮時代だったから起きたことであるが、それにしても日本の軍人たちに相当不満がたまっていただろうことは容易に推測がつく。

 その点で、軍縮時代の軍人が置かれた立場がいかに惨めだったかを叙述した箇所は、いくつも事例が挙げられており、さらに印象が深く説得的である。例えば、配属将校制度というものが実現し、現役軍人が学校で軍事教練を実施したのだが、ほかの学校教員たちは軍人を「仲間はずれ」にし、下駄履きで登校し教練の妨害をした学生さえいたことを語る資料を著者は紹介している(73頁)。

 こうした過酷な「いじめ」が軍人たちの不満を増大させて、後に様々な問題が起きる大きな要因になったわけである。この点については、これまでまだあまり十分に議論されることがなかっただけに、著者の指摘している事実は重く今後の議論の大きな手掛かりになるものと思われる。

 最後に、政治と軍事の関係の問題について触れておこう。統帥権の独立という制度があり、それには政治の軍事介入を禁止することと軍事の政治介入を禁止することの二つの面があったことを著者は指摘している。(これは元来、私の提言であり(筒井清忠『二・二六事件とその時代』ちくま文庫、2006,337~339頁)、別の著作が根拠として挙げられてしまったケアレスミスについてはすでに著者に指摘しており、2刷りの際に訂正されるはずである。)

 統帥権の独立ということが言われる時、政治家が軍事に関与できないという意味での政治の軍事介入禁止という面(前述の軍部大臣武官制もそれである)のみを主としてとりあげ、問題にする見方は間違いなのである。それを明確に示したという点で著者の指摘は重要であり、これも今後のこの方面の議論の基礎となるであろう。

 他に指摘すべき優れた成果はいくつもあるが、もはや紙幅も尽きた。本書を得ることによって、ようやく信頼できる中堅・若手の手になる「昭和陸軍・政治史」が現れたという思いが強い。本書を元にして多くの議論が起こり、研究が次のステップに進むことを期待したい。

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