使えない上司・使えない部下

2021年3月4日

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 今回は、公立大学法人奈良県立医科大学の人事課障害者雇用推進係長(障害者雇用推進マネージャー)の岡山弘美さんに取材を試みた。同大学が運営する奈良県立医科大学附属病院では、多数の障がい者が契約社員(現在、契約期間は1年。2020年までは半年)として働く。岡山さんは、採用から退職までの実務責任者だ。

 奈良県立医科大学附属病院は県内で最大規模の総合病院だが、2013年の障がい者雇用率は1.28%。当時の法定雇用率(2.3%)に届いていなかった。その頃まで岡山さんは病院内の保育園の園長をしていた。保育士や園長の長年の経験や技能、見識が評価され、2014年に人事課障がい者雇用推進係長(障害者雇用推進マネージャー)に抜擢される。それ以降、障がい者雇用に力を注ぎ、次々と改革を試みてきた。

 2021年2月現在、障がい者は計37人(男性30人、女性7人。知的28人、精神3人、発達障がい6人)が働く。障がい者雇用率は3.27%。現在の法定雇用率2.5%を大きく上回る。障がい者は病院の23の部門で看護師、看護助手、事務スタッフと一緒に院内の掃除や環境整備、事務のサポートをする。

 岡山さんにとって、「使えない上司、使えない部下」とは……。

(Rudzhan Nagiev/gettyimages)

「障がい者の支援者にこそ、何らかの問題がある」

 保育園の園長からこの病院に移り、係長(現場の責任者)になった始めの2年間は大変でした。「つらかった」…。その言葉しか出てこない。退職して、保育園に戻ろうと思ったこともあります。

 例えば、係員(障がい者の社員のこと)に廊下で会った時、「仕事はどうですか?」と聞くと、いきなり叩いてきたり、肩をつかみ、倒そうとしてくる時もありました。今にして思うと、スキンシップをはかろうとしていたのかもしれませんね。当時は、コミュニケーションがなかなか取れなかったのです。

 こういう状況が続くうちに、もしかして私に原因があるのかもしれないと感じるようになりました。「指導者」として、毎日ここに来ている感覚だったのかなと振り返るようになったのです。私の立場は実は、指導者ではないのです。「指導」の言葉には、上から目線のニャアンスが含まれているように思います。

 その頃から、「教える」といった姿勢ではなく、係員の皆さんに理解してもらおうと考えるようになりました。例えば、思っていることや感じていることを素直に丁寧に話すようにしたのです。皆さんは大人ですから、私なりに尊重して接しています。敬語をなるべく使うようにしているのです。

 今は係員から何を言われても、されても腹は立ちません。それほどに楽しく、幸福な日々です。例えば、発達障がいの男性から「係長も、発達障がいですね」と言われます。「そのようにご覧になりますか。私は、どの程度の障がいなのでしょうか?」と聞き返しています。

 その後、男性は「係長は発達障がいではありませんね。こんなに多くの人をまとめているのですから…」と言ってくれました。お褒めの言葉だと受け止めましたから、「ありがとうございます」と答えておきました。ここで働く発達障がいの人はまじめな性格で、正直です。ある男性は「(私のこと)すべてが嫌い」と言います。私は「わかりました。気をつけます」と答えます。不愉快? そんな思いになるわけがありません。思ったことをそのまま口にする傾向がありますから、「このように私は見られているんだな」と感じるくらいです。

 いつも気をつけているのは、この人はどのぐらいの知的レベルなのか、あるいは成長レベルだろうか、と丁寧に観察することです。それぞれの方により、違いがあります。例えば、精神障がいの係員の中には語彙力がとても豊富で、表現力が豊かな人もいます。知的障がい者の係員の場合はこちらとのやりとりを理解することが難しい時もあります。ですので、こういう例え話をして、かみくだいたほうがよく伝わるのかな、と感じながら接するようにしています。

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